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◇
「お帰りなさいませ、北條様。お荷物が届いております」
「ありがとう。彼は杉本君、俺の客だ」
「承知いたしました」
常駐しているという年配のコンシェルジュの男性が、にこりと笑う。大きめの紙袋を受け取った北野は、さらりと夏樹を紹介してエレベーターホールへ向かった。
カードキーをかざして乗り込んだエレベーターには、階数ボタンがついていない。そして何故か、エレベーターの中にソファーが置いてある。
「杉本、ほら」
北野に先程の紙袋を渡され、夏樹は中を覗いた。
「あ、俺の鞄」
そこには、川原に連れて行かれたホテルのラウンジに置いてきてしまった夏樹の鞄が入っていた。
食事のあと、バーカウンターに移動して、お勧めの酒を少し飲んだ。今回は、記憶をなくすような失態はしていない。していないのだが、別の問題が起きた。
『ところで杉本、今日泊まるホテルはどこだ? 送って行こう』
『え?』
夏樹は、ぱっと腕時計を見る。時刻は、午後9時を回っていた。川原の思惑はさておき、日帰りで戻るつもりだったのでホテルなど取っていない。
慌ててスマートフォンで帰りの新幹線を調べて指を折り、間に合わないかと近隣のホテルを探し出す夏樹に、北野が『うちで良かったら』と泊めてくれることになったのだ。
その時に、財布を入れたままの鞄を置き去りにしていると話すと、ホテルに連絡を取ってくれた。そういえばあのホテルは北條ホールディングスの系列だと、川原が言っていた。
北野の部屋は最上階だった。ちなみに、最上階はこの部屋しか存在しない。
広々とした玄関を通り抜け幾つかありそうなゲストルームの1つに案内されて荷物を置くと、『疲れただろう』と風呂を勧められ、これまた広いバスタブにゆっくりと体を浸した。
(すごい部屋だな……)
夏樹は、会社から電車で30分程の1DKに住んでいる。こことは比べ物にならない狭さだが、特に不自由は感じていない。スーパーは近いし大家さんもいい人だ。この前、たい焼きをくれた。
こんなに広いと掃除が大変そうだな、などと考えていると、扉の外から『着替え置いておくぞ』と声がかかった。
風呂を出て、用意されていたバスタオルで体を拭い、新品らしい下着とスウェットを身に着ける。サイズが合うところを見ると北野の物ではないのだろう。北野は夏樹より10センチは背が高い。スウェットの袖口にヒョウ柄があしらわれているのは、楓の影響だろうか。
「お帰りなさいませ、北條様。お荷物が届いております」
「ありがとう。彼は杉本君、俺の客だ」
「承知いたしました」
常駐しているという年配のコンシェルジュの男性が、にこりと笑う。大きめの紙袋を受け取った北野は、さらりと夏樹を紹介してエレベーターホールへ向かった。
カードキーをかざして乗り込んだエレベーターには、階数ボタンがついていない。そして何故か、エレベーターの中にソファーが置いてある。
「杉本、ほら」
北野に先程の紙袋を渡され、夏樹は中を覗いた。
「あ、俺の鞄」
そこには、川原に連れて行かれたホテルのラウンジに置いてきてしまった夏樹の鞄が入っていた。
食事のあと、バーカウンターに移動して、お勧めの酒を少し飲んだ。今回は、記憶をなくすような失態はしていない。していないのだが、別の問題が起きた。
『ところで杉本、今日泊まるホテルはどこだ? 送って行こう』
『え?』
夏樹は、ぱっと腕時計を見る。時刻は、午後9時を回っていた。川原の思惑はさておき、日帰りで戻るつもりだったのでホテルなど取っていない。
慌ててスマートフォンで帰りの新幹線を調べて指を折り、間に合わないかと近隣のホテルを探し出す夏樹に、北野が『うちで良かったら』と泊めてくれることになったのだ。
その時に、財布を入れたままの鞄を置き去りにしていると話すと、ホテルに連絡を取ってくれた。そういえばあのホテルは北條ホールディングスの系列だと、川原が言っていた。
北野の部屋は最上階だった。ちなみに、最上階はこの部屋しか存在しない。
広々とした玄関を通り抜け幾つかありそうなゲストルームの1つに案内されて荷物を置くと、『疲れただろう』と風呂を勧められ、これまた広いバスタブにゆっくりと体を浸した。
(すごい部屋だな……)
夏樹は、会社から電車で30分程の1DKに住んでいる。こことは比べ物にならない狭さだが、特に不自由は感じていない。スーパーは近いし大家さんもいい人だ。この前、たい焼きをくれた。
こんなに広いと掃除が大変そうだな、などと考えていると、扉の外から『着替え置いておくぞ』と声がかかった。
風呂を出て、用意されていたバスタオルで体を拭い、新品らしい下着とスウェットを身に着ける。サイズが合うところを見ると北野の物ではないのだろう。北野は夏樹より10センチは背が高い。スウェットの袖口にヒョウ柄があしらわれているのは、楓の影響だろうか。
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