杉本君について

葉月凛

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 北野の『夏樹は被害者』発言に、楓が目を吊り上げる。

「何ゆうてんの、被害者は美弥子や! 美弥子が可哀想や。断るにしたって、もっと、」

 そこに、スーツ姿の男性がバタバタと駆け込んで来た。

「楓さん! 5分たちました。もう戻ってください、皆待ってますから!」

 スマートフォンを握りしめた男性は、おろおろと声をかける。北野が呆れた声を出した。

「楓、また現場を抜けて来たのか?」
「そやかて」
「早く戻れ、美弥子には俺からも説明するから」
「でも」
「楓!」
「っ、……うん」

 渋々といった風に立ち上がる楓は、最後に夏樹をぎろりと睨む。

「あんた、見合いは仕切り直しや。早よ帰りや! これ以上ゆりちゃんに付きまとったら」

 楓の恐ろしく整った顔が、ずいと夏樹に近付いた。耳元に、ぴったりと唇をつけられる。

「……先斗ぽんと町の泡風呂に沈めたるで」
「ひっ」

 鼓膜に直接吹き込まれ、思わず耳を塞いで蹲った。

「楓さんっ、早く!」

 マネージャーらしき男性に急かされた楓は、着物の裾をぱっと払い、つんと顎を上げて部屋を出て行った。

 直後に、店のマスターが顔を覗かせる。

「──ゆりちゃん、大丈夫やったぁ?」
「マスター。もしかして、楓に連絡入れた?」

 北野の指摘に、マスターは申し訳なさそうに顔の前で手を合わせた。

「ごめんなぁ。ゆりちゃん来たら教えてって言われてるんよ。お連れがいてる時は特に……ほら、この店出した時、あの子にはめっちゃ助けてもろたから。不義理はできんのよ、堪忍」

 北野は、はぁ、とため息をついた。

「あいつは全く……マスター悪いな、変な役目押し付けてたみたいで」
「ううん。楓君には、いっつも助けてもろてんのよ、もちろんゆりちゃんにも」

 夏樹にも『ごめんねぇ』と謝ったマスターは、にこにこと戻って行った。

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