杉本君について

葉月凛

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 テーブルを挟んだ向かいの席に三國専務が腰を下ろしたところを見計らうように、コーヒーが3つ運ばれてきた。

「杉本君は入社3年目なんやってね? 仕事はどない?」
「あ、はい。えと、自分はまだまだ勉強することだらけですが、お客様と直接お話しできる部署におりますので、その、やりがいも大きくて……」
「ははっ、杉本君は真面目やなぁ」

 何と答えればいいのか分からずしゃちほこ張る夏樹に、三國専務が目を細めて笑った。

「杉本ぉ、仕事の面接じゃないんだから」

 川原が、隣で呆れたような声を出した。

「……すみません」
「いやいや、噂に違わぬ好青年やねぇ、うんうん」
「ええ、社内でも真面目な男ですよ」

 社内でもほとんど面識のない川原に太鼓判を押され、肩を竦める。

「何かスポーツはやるんかな? 大学の専攻は?」
「あ、高校生の時に剣道をやってました。大学の専攻は──」

 にこにこと微笑みながら次々と質問してくる三國専務に、夏樹は徐々に不安が増してくる。

(──待って。これは)

 ちらりと隣を見るも、頼みの川原は優雅にコーヒーを飲んでいるだけだった。

「それで、杉本君は……婿養子に入ることに、何か問題は?」
「っ、」

 思わず言葉を失った夏樹は、バッと隣を見る。川原は手にしたコーヒーカップをそっとソーサーに戻すと、緩く微笑み、眉を下げた。

「……杉本君のご両親は、彼が小学生の時に離婚されてましてね。もうそれぞれに別のご家庭がおありになる。婿養子に問題はないでしょう。ただ……そうですね、温かい家庭というものに縁が薄かった分、これからは幸せな家庭を築いて欲しいと願っているのですが」
「………」

 夏樹は、目を見開いて川原を見る。

「それは……すまんかったね、余計なことを」
「いいえ」

 申し訳なさそうにする三國専務に、何故か川原が力なく微笑んで首を振る。

 両親が離婚してそれぞれ別の家庭を持っていることは事実だが、温かい家庭云々に関しては、そんな風に考えたことは一度もない。

(え、待って。これって、もしかして──)

 ここにきて、ようやく夏樹の背筋をざわりと悪寒が走った。

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