66 / 106
66
しおりを挟む
◇
京都に到着したのは、午後4時を過ぎていた。
川原は、夏樹が起こすまでもなく到着する少し前に目を覚ました。大きく伸びをしながら、夏樹を振り返る。
「うーん、よく寝た。……逃げなかったんだね? 偉い偉い」
「っ、」
川原に微笑まれて、これは逃げる案件だったのかと目を見開く。
「ははっ、冗談だよ、冗談。……さーて、行こうか」
「………」
川原は、どうも掴みどころがない。
夏樹は口数少なく、川原について列車を降りた。
京都駅からは、タクシーに乗り込む。
夏樹は窓の外を流し見て、川原が運転手と他愛のない話をしていると、30分程で瀟洒なリゾートホテルの前に到着した。
「うん、時間通り」
時計を見て頷く川原について、ロビーに併設されたティーラウンジに向かう。
入り口に立った川原がラウンジ内を見渡し、三國専務がまだ来ていないことを確認したのか、ボーイに案内を任せる。あとから人が来ることを伝え、窓際のテーブル席の片側に、川原と並んで腰を下ろした。
「このホテルも、北條ホールディングスの系列だよ。手広いねぇ」
小声で囁く川原がにこりと笑ったところで、ラウンジ入口から年嵩の男性が1人、フロアに入って来た。落ち着いた色合いのスリーピースに身を包んだ男性は、川原を見つけて軽く手を上げ、人懐こそうに笑みを浮かべながらこちらに来る。
「川原さん! いやぁ、悪いねぇ。遠いところ来てもろて」
「三國専務、お久しぶりです」
さっと立ち上がった川原につられて夏樹も立ち上がり、共に頭を下げる。
男性は、にこにこと夏樹に目を移した。
「こちらが杉本君やね? お呼び立てして悪かったねぇ、忙しいやろに」
「いえいえ、とんでもない。ほら、杉本、名刺」
「あ」
川原に小さく小突かれ、夏樹が慌てて内ポケットから名刺入れを取り出す。普段、名刺交換などほとんどしないため、慣れない手付きで夏樹は名刺を差し出した。
「サクラオフィスで製品サポートを担当しております、杉本夏樹です」
受け取った名刺に目を通す三國専務を、川原が誇らしげに紹介する。
「杉本、こちらが北條ホールディングス専務の三國さんだ」
三國専務は微笑みながら、自身の名刺を夏樹に差し出した。
「三國です。今日は娘の我が儘に付きおうてもろて、申し訳なかったねぇ」
「いえ、そんなことは……」
渡された名刺には、『三國雅晴』と書かれてあった。北野が、夏樹の情報を流していた相手で間違いない。
京都に到着したのは、午後4時を過ぎていた。
川原は、夏樹が起こすまでもなく到着する少し前に目を覚ました。大きく伸びをしながら、夏樹を振り返る。
「うーん、よく寝た。……逃げなかったんだね? 偉い偉い」
「っ、」
川原に微笑まれて、これは逃げる案件だったのかと目を見開く。
「ははっ、冗談だよ、冗談。……さーて、行こうか」
「………」
川原は、どうも掴みどころがない。
夏樹は口数少なく、川原について列車を降りた。
京都駅からは、タクシーに乗り込む。
夏樹は窓の外を流し見て、川原が運転手と他愛のない話をしていると、30分程で瀟洒なリゾートホテルの前に到着した。
「うん、時間通り」
時計を見て頷く川原について、ロビーに併設されたティーラウンジに向かう。
入り口に立った川原がラウンジ内を見渡し、三國専務がまだ来ていないことを確認したのか、ボーイに案内を任せる。あとから人が来ることを伝え、窓際のテーブル席の片側に、川原と並んで腰を下ろした。
「このホテルも、北條ホールディングスの系列だよ。手広いねぇ」
小声で囁く川原がにこりと笑ったところで、ラウンジ入口から年嵩の男性が1人、フロアに入って来た。落ち着いた色合いのスリーピースに身を包んだ男性は、川原を見つけて軽く手を上げ、人懐こそうに笑みを浮かべながらこちらに来る。
「川原さん! いやぁ、悪いねぇ。遠いところ来てもろて」
「三國専務、お久しぶりです」
さっと立ち上がった川原につられて夏樹も立ち上がり、共に頭を下げる。
男性は、にこにこと夏樹に目を移した。
「こちらが杉本君やね? お呼び立てして悪かったねぇ、忙しいやろに」
「いえいえ、とんでもない。ほら、杉本、名刺」
「あ」
川原に小さく小突かれ、夏樹が慌てて内ポケットから名刺入れを取り出す。普段、名刺交換などほとんどしないため、慣れない手付きで夏樹は名刺を差し出した。
「サクラオフィスで製品サポートを担当しております、杉本夏樹です」
受け取った名刺に目を通す三國専務を、川原が誇らしげに紹介する。
「杉本、こちらが北條ホールディングス専務の三國さんだ」
三國専務は微笑みながら、自身の名刺を夏樹に差し出した。
「三國です。今日は娘の我が儘に付きおうてもろて、申し訳なかったねぇ」
「いえ、そんなことは……」
渡された名刺には、『三國雅晴』と書かれてあった。北野が、夏樹の情報を流していた相手で間違いない。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ブライダル・ラプソディー
葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。
しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが──
エブリスタにも投稿しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる