杉本君について

葉月凛

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「専務から君のことを色々聞かれてねぇ。悪いが少し、調べさせてもらった。特に、決まった相手はいないんだってね?」

 思いがけない展開に、頭がついていけない。ついてはいけないが……

「あの、それってもしかして……お見合い、ですか?」

 喉が妙に渇きながらも、確かめずにいられない。すると、川原は大袈裟に笑って手を振った。

「いやいや! そんな堅苦しいものじゃないから、心配しないで。あちらさんもまだ20歳だしね。ちょっと会って話をして、気が合いそうだったら、お付き合いをだねぇ」
「あの、でも、会ったこともないと思うんですけど」
「それがね、ほら、この前うちの30周年の記念パーティーがあったじゃない。そこにお嬢さんもいらしててね、君のことを見かけたそうだ」
「パーティーの時……」

 サクラオフィスでは、2か月程前に会社創業30周年を祝う記念パーティーがあった。支社設立10周年も兼ねたので支社側のホテルで行われ、支社に在籍する社員はほぼ全員が出席した。

 取引先関係も多数出席した大規模なパーティーだったのだが、北條ホールディングスの人間も来ていたとは、知らなかった。

「あの、でも、僕は……」

 そんな話なら、前もって言って欲しかった。黙って連れて行くなんて、あんまりだ。思わず抗議しそうになる夏樹に、川原の表情が、すっと冷えた。

「──うちは北條ホールディングスの傘下に入る。そこの専務の、たってのお願いなんだ。……分かるね?」
「っ、」

 言葉を呑み込む夏樹に、川原は再び、人好きのする顔に戻る。

「まぁ、そんなに難しく考えないで。こちらの顔を立てると思ってさ、会うだけ会ってよ、ね? 君にとっても悪い話じゃないだろう」

 ちろりと横目に視線を投げる川原は、相当な狸だ。

「悪い、本当に眠いんだ」

 もう話は終わり、とばかりに手のひらをこちらに見せると、川原は反対側に体を向け、ごろりと寝る姿勢に入った。

「………」

 寝たふりかと思ったが、5分もたたないうちに本当にすうすうと寝息が聞こえる。川原の背中をしばらく見ていた夏樹は諦めるように座り直し、大きくため息をついた。

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