杉本君について

葉月凛

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          ◆

 翌日は雨も上がり、出張日和(?)の晴天だった。

 言われた通りに午前中は通常業務につき、今日も社員食堂で1人A定食を食べて戻ったところに、川原から内線連絡がきた。

 後輩社員に京都出張を羨ましがられ、派遣の女性社員たちにお土産をねだられながら、オフィスをあとにする。

 1階で合流した川原と駅に向かう途中、夏樹を上から下まで見て『ん、いいんじゃない?』と微笑まれた時は、ほっとした。

 昨夜、『きちんとした服装』について悩んだ夏樹は、入社式の際に新調したスーツを着て来たのだが、正解だったようだ。

 コールセンターの勤務期間は服装は基本フリーなので、夏樹はカジュアルになりすぎない程度の私服を着用することが多い。ただそんな夏樹は少数派らしく、見たところ男性社員はスーツを着用している者が半数以上だ。同期の桑原も普段からスーツを着用しているし、北野もずっとスーツだった。

 久しぶりにきっちりした格好をすると、気持ちも引き締まる。初めての出張に程良い緊張感を伴って、夏樹は川原について行った。

 金曜日の午後のいうこともあり、駅構内は多くの人が行き交っていた。新幹線に乗るのも、久しぶりだ。
 指定された車両に乗り込むと、座席に着くなり川原は大きな欠伸をした。

「昨夜も深かったんだよねー。ごめん、ちょっと寝るから、京都に着いたら起こしてくれる?」

 言うなり座席の背もたれを倒して眠ろうとする川原に、夏樹は慌てて声をかけた。

「あっ待ってください。あの、どちらの会社の方とお会いするのか、お聞きしても……」
「ん? ああ、そうだね。お会いするのは三國さんだよ、北條ホールディングスの」
「え、北條?」
「ああ。もう噂は回ってるよね? うちの会社は、北條ホールディングスの傘下に入る。正式発表は、来週だ」
「はい……」
「まぁ、それは置いておいて」

 川原が、にこにこと夏樹を見る。

「北條ホールディングスの、三國専務の娘さんがね。君とお近付きになりたいそうだ」
「え?」

 夏樹が、ぽかんと川原を見る。

「君も隅に置けないねぇ! お嬢さんは短大を出たばかりの、20歳らしいよ」
「え? え?」

 話に、ついていけない。

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