杉本君について

葉月凛

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          ◆

 翌日も、北野は出社しなかった。

 個人的な連絡先は交換していないため、夏樹は謝ることもできていない。時間がたつごとに後悔は増してゆき、2日目の今日はもう、どうしてあんなに腹が立ったのか分からず、自分で自分を殴りたい気持ちだった。

 そんな夏樹の横を、出勤した派遣社員の女性が通り過ぎる。ちなみに彼女らには昨日、飲み会でおそらく絡んだだろうことを詫びたのだが、不思議な顔をされただけだった。

「ねぇ、阪木さん。北野さんのあの資料、すっごい分かりやすいです! 私、昨日コピりまくりでしたよ」

 嬉しそうに報告する女性社員に、他の人も同意を示す。北野の資料は、好評だった。

(……だよね。俺もそう思う)

 本来なら先輩社員である夏樹が率先して作らないといけない資料なのだが、そんなことはもう、どうでもいい。元気の出ない夏樹は、生ぬるい視線を送る阪木にも気付かないふりをする。

(明日は来るかな、北野さん)

 空席の隣を見て、もう何度目か分からないため息をつく。

 今日は、雨まで降っている。
 出勤する途中で降り出したため、傘を持っていなかった夏樹はしっとりと濡れてしまった。雨の日の、湿度の高いオフィスでようやく服が乾いたのは、昼に差しかかる頃だった。

「あ、桑原……」

 エレベーターの前で、昼休憩に向かうらしい桑原は、先輩社員と一緒だった。夏樹と目が合って、ヒラヒラと軽く手を振られる。昨日も社員食堂に姿を見せなかった桑原だが、どうやら先輩社員と外に食べに行っているらしい。

(……何だよ、話聞いて欲しかったのに)

 桑原にも見捨てられた気分の夏樹は、1人で社員食堂へと向かう。安定の筈のA定食は、メニューの中で唯一苦手な酢豚だった。

「………」

 ささくれた気持ちでカレーを注文する。
 無造作によそわれたカレーを受け取り、窓に面したカウンター席の端っこに腰を下ろす。

 そして、食べ進めていると、ふと気付く。夏樹のビーフカレーには、何故か肉が入っていなかった。

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