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今日は久しぶりのメール担当の日だ。
始業時間になり、阪木チームは皆静かにパソコンに向かった。
(えーと、次は……うわ、固定資産か)
順調にメール返信をこなしていた夏樹の、手元が止まる。
(ええと……固定資産の売却収入の事業区分を……売却原価の消費税が……んん)
夏樹は思わず、受付メール一覧を見る。
基本的に到着順に処理していくのだが、派遣社員や新人社員は、分からない質問は飛ばして先に進むこともある。2年目の夏樹は、もちろん飛ばせない。
見てみると、既に何人かが飛ばしたあとだった。
(うう。ええと……どこかに似たような内容があったような)
こんな時のために、夏樹も自身の資料はパソコンにまとめてある。まとめてあるが、なかなか活用できていないのが現状だった。
「すみません、阪木さん……」
1つの案件にあまり時間はかけられない。結局、阪木を頼る夏樹は情けなさそうに、パーティションの上から向かいを覗いた。
「ん? どれで詰まってる? ……ああ、これか」
質問メールにさっと目を通すと、阪木がカチカチとパソコンを操作する。
「──おう、あった。うちのチームの共有フォルダに、北野君が新しい資料置いてくれたんだよ。そこにちょうど載ってるから、見てみろ」
「えっ、そうなんですか」
夏樹は慌てて、共有フォルダを確認する。チームメンバー全員が閲覧できる共有フォルダを開くと、そこに新しいフォルダが保存されていた。開くと、幾つかの項目に分かれて、FAQ形式の文書が保存されている。
(消費税に固定資産、資金繰りの比率計算……あれ、これって)
分かりやすく噛み砕いた丁寧な説明は、そのままコピーして返信に使えるよう編集されていた。その内容は、以前北野と行った製品テストで、夏樹が確認返答につまった箇所ばかりだ。
(え、これってもしかして……俺のため、とか?)
まさか、と思いながら、夏樹は業務に戻る。北野の資料を元にメールを返し、次のメールへと進みながら、空席の隣をちらりと見た。
「──よし! チェック終了だ。北野君の資料、分かりやすいし実用的だから、皆に周知しておくな」
阪木の言葉とほぼ同時に、チームメンバーに一斉メールが届く。チームの共有フォルダは皆利用できるが、資料などを置く場合はリーダーの阪木が目を通す決まりだった。
(北野さん、いつの間にこんなの作ったんだろ)
やっぱり、自分のためだという要素が大きい気がする。それなのに、昨日、自分はひどいことを言った。
(見損なった、だなんて。言っちゃいけない言葉だった)
昨日、帰り際の北野の表情は見ていないが、あれは傷付ける言葉だったという自覚がある。普段、人を攻撃することなどほとんどないから、加減ができなかった。
「………」
ため息をついて、パソコンに向かう。
自己嫌悪にずっしりと襲われながら、黙々と仕事をこなす夏樹だった。
始業時間になり、阪木チームは皆静かにパソコンに向かった。
(えーと、次は……うわ、固定資産か)
順調にメール返信をこなしていた夏樹の、手元が止まる。
(ええと……固定資産の売却収入の事業区分を……売却原価の消費税が……んん)
夏樹は思わず、受付メール一覧を見る。
基本的に到着順に処理していくのだが、派遣社員や新人社員は、分からない質問は飛ばして先に進むこともある。2年目の夏樹は、もちろん飛ばせない。
見てみると、既に何人かが飛ばしたあとだった。
(うう。ええと……どこかに似たような内容があったような)
こんな時のために、夏樹も自身の資料はパソコンにまとめてある。まとめてあるが、なかなか活用できていないのが現状だった。
「すみません、阪木さん……」
1つの案件にあまり時間はかけられない。結局、阪木を頼る夏樹は情けなさそうに、パーティションの上から向かいを覗いた。
「ん? どれで詰まってる? ……ああ、これか」
質問メールにさっと目を通すと、阪木がカチカチとパソコンを操作する。
「──おう、あった。うちのチームの共有フォルダに、北野君が新しい資料置いてくれたんだよ。そこにちょうど載ってるから、見てみろ」
「えっ、そうなんですか」
夏樹は慌てて、共有フォルダを確認する。チームメンバー全員が閲覧できる共有フォルダを開くと、そこに新しいフォルダが保存されていた。開くと、幾つかの項目に分かれて、FAQ形式の文書が保存されている。
(消費税に固定資産、資金繰りの比率計算……あれ、これって)
分かりやすく噛み砕いた丁寧な説明は、そのままコピーして返信に使えるよう編集されていた。その内容は、以前北野と行った製品テストで、夏樹が確認返答につまった箇所ばかりだ。
(え、これってもしかして……俺のため、とか?)
まさか、と思いながら、夏樹は業務に戻る。北野の資料を元にメールを返し、次のメールへと進みながら、空席の隣をちらりと見た。
「──よし! チェック終了だ。北野君の資料、分かりやすいし実用的だから、皆に周知しておくな」
阪木の言葉とほぼ同時に、チームメンバーに一斉メールが届く。チームの共有フォルダは皆利用できるが、資料などを置く場合はリーダーの阪木が目を通す決まりだった。
(北野さん、いつの間にこんなの作ったんだろ)
やっぱり、自分のためだという要素が大きい気がする。それなのに、昨日、自分はひどいことを言った。
(見損なった、だなんて。言っちゃいけない言葉だった)
昨日、帰り際の北野の表情は見ていないが、あれは傷付ける言葉だったという自覚がある。普段、人を攻撃することなどほとんどないから、加減ができなかった。
「………」
ため息をついて、パソコンに向かう。
自己嫌悪にずっしりと襲われながら、黙々と仕事をこなす夏樹だった。
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