59 / 106
59
しおりを挟む
今日は久しぶりのメール担当の日だ。
始業時間になり、阪木チームは皆静かにパソコンに向かった。
(えーと、次は……うわ、固定資産か)
順調にメール返信をこなしていた夏樹の、手元が止まる。
(ええと……固定資産の売却収入の事業区分を……売却原価の消費税が……んん)
夏樹は思わず、受付メール一覧を見る。
基本的に到着順に処理していくのだが、派遣社員や新人社員は、分からない質問は飛ばして先に進むこともある。2年目の夏樹は、もちろん飛ばせない。
見てみると、既に何人かが飛ばしたあとだった。
(うう。ええと……どこかに似たような内容があったような)
こんな時のために、夏樹も自身の資料はパソコンにまとめてある。まとめてあるが、なかなか活用できていないのが現状だった。
「すみません、阪木さん……」
1つの案件にあまり時間はかけられない。結局、阪木を頼る夏樹は情けなさそうに、パーティションの上から向かいを覗いた。
「ん? どれで詰まってる? ……ああ、これか」
質問メールにさっと目を通すと、阪木がカチカチとパソコンを操作する。
「──おう、あった。うちのチームの共有フォルダに、北野君が新しい資料置いてくれたんだよ。そこにちょうど載ってるから、見てみろ」
「えっ、そうなんですか」
夏樹は慌てて、共有フォルダを確認する。チームメンバー全員が閲覧できる共有フォルダを開くと、そこに新しいフォルダが保存されていた。開くと、幾つかの項目に分かれて、FAQ形式の文書が保存されている。
(消費税に固定資産、資金繰りの比率計算……あれ、これって)
分かりやすく噛み砕いた丁寧な説明は、そのままコピーして返信に使えるよう編集されていた。その内容は、以前北野と行った製品テストで、夏樹が確認返答につまった箇所ばかりだ。
(え、これってもしかして……俺のため、とか?)
まさか、と思いながら、夏樹は業務に戻る。北野の資料を元にメールを返し、次のメールへと進みながら、空席の隣をちらりと見た。
「──よし! チェック終了だ。北野君の資料、分かりやすいし実用的だから、皆に周知しておくな」
阪木の言葉とほぼ同時に、チームメンバーに一斉メールが届く。チームの共有フォルダは皆利用できるが、資料などを置く場合はリーダーの阪木が目を通す決まりだった。
(北野さん、いつの間にこんなの作ったんだろ)
やっぱり、自分のためだという要素が大きい気がする。それなのに、昨日、自分はひどいことを言った。
(見損なった、だなんて。言っちゃいけない言葉だった)
昨日、帰り際の北野の表情は見ていないが、あれは傷付ける言葉だったという自覚がある。普段、人を攻撃することなどほとんどないから、加減ができなかった。
「………」
ため息をついて、パソコンに向かう。
自己嫌悪にずっしりと襲われながら、黙々と仕事をこなす夏樹だった。
始業時間になり、阪木チームは皆静かにパソコンに向かった。
(えーと、次は……うわ、固定資産か)
順調にメール返信をこなしていた夏樹の、手元が止まる。
(ええと……固定資産の売却収入の事業区分を……売却原価の消費税が……んん)
夏樹は思わず、受付メール一覧を見る。
基本的に到着順に処理していくのだが、派遣社員や新人社員は、分からない質問は飛ばして先に進むこともある。2年目の夏樹は、もちろん飛ばせない。
見てみると、既に何人かが飛ばしたあとだった。
(うう。ええと……どこかに似たような内容があったような)
こんな時のために、夏樹も自身の資料はパソコンにまとめてある。まとめてあるが、なかなか活用できていないのが現状だった。
「すみません、阪木さん……」
1つの案件にあまり時間はかけられない。結局、阪木を頼る夏樹は情けなさそうに、パーティションの上から向かいを覗いた。
「ん? どれで詰まってる? ……ああ、これか」
質問メールにさっと目を通すと、阪木がカチカチとパソコンを操作する。
「──おう、あった。うちのチームの共有フォルダに、北野君が新しい資料置いてくれたんだよ。そこにちょうど載ってるから、見てみろ」
「えっ、そうなんですか」
夏樹は慌てて、共有フォルダを確認する。チームメンバー全員が閲覧できる共有フォルダを開くと、そこに新しいフォルダが保存されていた。開くと、幾つかの項目に分かれて、FAQ形式の文書が保存されている。
(消費税に固定資産、資金繰りの比率計算……あれ、これって)
分かりやすく噛み砕いた丁寧な説明は、そのままコピーして返信に使えるよう編集されていた。その内容は、以前北野と行った製品テストで、夏樹が確認返答につまった箇所ばかりだ。
(え、これってもしかして……俺のため、とか?)
まさか、と思いながら、夏樹は業務に戻る。北野の資料を元にメールを返し、次のメールへと進みながら、空席の隣をちらりと見た。
「──よし! チェック終了だ。北野君の資料、分かりやすいし実用的だから、皆に周知しておくな」
阪木の言葉とほぼ同時に、チームメンバーに一斉メールが届く。チームの共有フォルダは皆利用できるが、資料などを置く場合はリーダーの阪木が目を通す決まりだった。
(北野さん、いつの間にこんなの作ったんだろ)
やっぱり、自分のためだという要素が大きい気がする。それなのに、昨日、自分はひどいことを言った。
(見損なった、だなんて。言っちゃいけない言葉だった)
昨日、帰り際の北野の表情は見ていないが、あれは傷付ける言葉だったという自覚がある。普段、人を攻撃することなどほとんどないから、加減ができなかった。
「………」
ため息をついて、パソコンに向かう。
自己嫌悪にずっしりと襲われながら、黙々と仕事をこなす夏樹だった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ブライダル・ラプソディー
葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。
しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが──
エブリスタにも投稿しています。

春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる