杉本君について

葉月凛

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 隣の席に着いた北野は、夏樹を見てにこりと笑った。

「っ、」

 思わず、眉間にぎゅっと皺が寄る。

「……どうした? どこか具合でも悪いのか?」

 心配そうに首を傾げる北野に、夏樹は不快感が込み上げる。メールであんな風に自分のことを悪く書いておきながら、心配そうに話しかける北野が信じられない。

「……別に」
「別にって、お前。まさか、二日酔い引きずってるのか? もう夕方だぞ」
「えー杉本、また飲みすぎたのか? だから今日ぼんやりしてたんだな。社会人として、それはどうかと思うぞー」

 パーティションの向こうから、阪木の笑いを含んだ声が飛んだ。

「っ、違うから!」
「……どうしたんだ」

 急に大声を出した夏樹に、北野が目を丸くする。その様子が癪に触ると、夏樹は我慢ができなくなった。

「──あのさ。俺って、そんなに優柔不断かな」
「は?」

 北野が、不思議そうに夏樹を見る。
 一度口から出てしまうと、もう止められなかった。

「女性関係に難ありって、何? 俺、別に女癖悪くないつもりだけど」

 ぎろりと睨みつける夏樹に、北野は一瞬黙ったあと、表情を固くした。

「……メールを見たのか」
「ねぇ、俺の金銭感覚、おかしい?」
「人のメールを、勝手に見たのか」

 目を眇めるように不快を示す北野の様子に、夏樹はどんどん腹が立ってきた。

「見たよ! ってか、会社のパソコンだろっ、見て悪い?」
「あー、杉本」

 そこで、立ち上がった阪木が割って入る。

「それは、杉本が悪い。会社のパソコンだろうが、人のメールは勝手に見るもんじゃないぞ」
「っ、……」

 それくらい、言われなくも分かっている。

「北野君も、会社のメール、私用に使っちゃだめだよ」
「はい、すみません」

 素直に謝罪する北野に、尚更腹が立つ。

「……あのな、杉本」

 北野がため息混じりに話しかけると、夏樹はガタッと席を立った。足元の鞄を掴み、乱暴にデスクの上の物を突っ込む。

「──見損なったよ」

 ぼそりと、顔も見ずに捨て台詞を吐いて、夏樹は足早にオフィスを出たのだった。

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