51 / 106
51
しおりを挟む
◆
「よーし。ミーティング終了! 解散ー」
「はーい」
朝のミーティングが終わり、阪木の締めの言葉で皆が席へ帰ってゆく。
「じゃあ北野君は、開発。よろしくね」
北野は、今日も開発から呼び出しがかかっている。
「あ……頑張って」
夏樹が声をかけると、北野は、にこりと微笑んでから席を離れた。
大きく伸びをして、夏樹はパソコンに向かう。昨夜飲みすぎた割には、全くといっていい程、今日に響いていない。
(あのお酒、かなりいいやつだったんじゃないのかな……)
高い酒は二日酔いにならないというのは本当なんだと、妙に感心する。
今朝、目覚めた夏樹は、軽くパニックになった。全く知らないところで目が覚めたのだ。
『えっ。どこっ、ここっ』
やたら肌触りのいい布団に包まりベッドでおろおろしているところに、シャワーを浴びたらしい北野がバスローブ姿で入って来た時には、頭が真っ白になった。
目を見開いて声も出ない夏樹に、北野は苦笑した。
『日本酒は足にくるからな。飲ませすぎて、悪かった』
昨夜、立ち上がった途端に崩れ落ちた夏樹は、その辺りから記憶がない。この部屋が食事をしたホテルの客室だと聞いて、夏樹は驚いた。
酔い潰れた自分のためにわざわざ部屋を取ったのかと聞くと、そうじゃないと言った。
『ここに泊まってるんだよ。こっちの勤務、決まったのが急だったから』
それにしても、もうひと月近くになる。その間ずっとホテル暮らしなのかと聞くと、月単位で滞在することはたまにあると言う。……そういうものなのか?
『……あんまり、人には言わないでくれ』
夏樹の反応に眉をひそめた北野は、小さく付け足したのだった。
ログインを済ませて、ヘッドセットを装着する。マイクの位置を直しながら、夏樹は自身の唇に、そっと触れた。
昨夜、夢を見た。
ゆらゆらした気持ちのいい場所で目を開くと、北野が自分を覗き込んでいる。何か言いたげに開かれた赤い唇が気になって、ああ、キスしたい、と思ったら──キスされた。もっとしたい、と思ったら、舌を入れられた。つまり、かなりディープなキスをしたのだ。……夢だけど。
(全く、何て夢見てるんだよ……)
おそらく昨日ファーストキスの話を聞いたからだと思うが、あまりの生々しい夢に、目覚めて北野の姿を見た時には息が止まりそうになった。
誘われた朝食も断って早々に一度自宅に戻り、シャワーを浴びて、今はさっぱりしている。
夏樹は、自身の頬を軽く両手で叩いた。
「よしっ、今日も1日、がんばろー」
「おう、頑張ってくれ」
大きな独り言に、パーティションの向こうから笑いを含んだ阪木の返事が返ってきた。
「よーし。ミーティング終了! 解散ー」
「はーい」
朝のミーティングが終わり、阪木の締めの言葉で皆が席へ帰ってゆく。
「じゃあ北野君は、開発。よろしくね」
北野は、今日も開発から呼び出しがかかっている。
「あ……頑張って」
夏樹が声をかけると、北野は、にこりと微笑んでから席を離れた。
大きく伸びをして、夏樹はパソコンに向かう。昨夜飲みすぎた割には、全くといっていい程、今日に響いていない。
(あのお酒、かなりいいやつだったんじゃないのかな……)
高い酒は二日酔いにならないというのは本当なんだと、妙に感心する。
今朝、目覚めた夏樹は、軽くパニックになった。全く知らないところで目が覚めたのだ。
『えっ。どこっ、ここっ』
やたら肌触りのいい布団に包まりベッドでおろおろしているところに、シャワーを浴びたらしい北野がバスローブ姿で入って来た時には、頭が真っ白になった。
目を見開いて声も出ない夏樹に、北野は苦笑した。
『日本酒は足にくるからな。飲ませすぎて、悪かった』
昨夜、立ち上がった途端に崩れ落ちた夏樹は、その辺りから記憶がない。この部屋が食事をしたホテルの客室だと聞いて、夏樹は驚いた。
酔い潰れた自分のためにわざわざ部屋を取ったのかと聞くと、そうじゃないと言った。
『ここに泊まってるんだよ。こっちの勤務、決まったのが急だったから』
それにしても、もうひと月近くになる。その間ずっとホテル暮らしなのかと聞くと、月単位で滞在することはたまにあると言う。……そういうものなのか?
『……あんまり、人には言わないでくれ』
夏樹の反応に眉をひそめた北野は、小さく付け足したのだった。
ログインを済ませて、ヘッドセットを装着する。マイクの位置を直しながら、夏樹は自身の唇に、そっと触れた。
昨夜、夢を見た。
ゆらゆらした気持ちのいい場所で目を開くと、北野が自分を覗き込んでいる。何か言いたげに開かれた赤い唇が気になって、ああ、キスしたい、と思ったら──キスされた。もっとしたい、と思ったら、舌を入れられた。つまり、かなりディープなキスをしたのだ。……夢だけど。
(全く、何て夢見てるんだよ……)
おそらく昨日ファーストキスの話を聞いたからだと思うが、あまりの生々しい夢に、目覚めて北野の姿を見た時には息が止まりそうになった。
誘われた朝食も断って早々に一度自宅に戻り、シャワーを浴びて、今はさっぱりしている。
夏樹は、自身の頬を軽く両手で叩いた。
「よしっ、今日も1日、がんばろー」
「おう、頑張ってくれ」
大きな独り言に、パーティションの向こうから笑いを含んだ阪木の返事が返ってきた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
ブライダル・ラプソディー
葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。
しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが──
エブリスタにも投稿しています。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる