杉本君について

葉月凛

文字の大きさ
上 下
50 / 106

50

しおりを挟む
「楓さんのこと、悪くなんて思ってないから。……ちょっと、ふざけただけなんだろうし」

 ふざけたというレベルではなかったのだが、楓の北野に対する想いを考えると、少し気の毒な気持ちも湧いてくる。

「すまないな」

 情けなさそうに笑う北野に、夏樹は首を振って微笑んだのだった。

 それからは、他愛のない話に花が咲いた。

 楓が出演したテレビを見ていなかった北野だが、普段からあまりテレビを見る習慣がないらしい。それは昔からだそうで、先日楓が会社に来た時の騒ぎを見てその知名度に改めて驚いたそうだ。

 大学生の頃などはノリで騒がれていただけと思っていたそうで、実際こんなに有名だとは思わなかったと言う北野に、いとこなのに何故知らないんだと逆に驚く夏樹だった。

 美味しい料理に、美味しいお酒。
 窓から見えるキラキラと瞬く夜景が色濃くなる頃には、夏樹は気持ち良く酔いが回っていた。昼を食べていなくて、空腹に飲んだことも悪い。

「──それでだな、杉本。お前には話しておきたいことがあるんだが」
「……うん」

 ひとしきり話をしたあと、北野がおもむろに箸を置いた。

「今日来てもらったのは、楓のことだけじゃないんだ。話っていうのはな……杉本?」
「………はぃ?」
「まさか、酔ってるのか?」
「………まさか」
「酔ってるだろう」

 目の縁を赤く染めてにっこり笑う夏樹に、北野が小さく息を吐いた。

「話したいことがあったんだが……まぁいい。次の機会に、話すよ」
「……うん。ふふ」

 北野が手を伸ばして、夏樹の持っている酒をそっと取り上げ、ひと息で飲み干す。

「はは、男前」
「っ、」

 へらりと笑って首を傾げる夏樹に、北野が目を細める。

「……お前なあ」
「あつ」

 店員が置いた湯呑みを両手で持って口をつけた夏樹が、ふぅと息を吹きかける。

「それ飲んだら、行くか」
「うん」

 夏樹は、嬉しそうに夜景を見下ろす。そしてゆっくりと、北野を見た。

「北野さん。今日は、楽しかった」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

ブライダル・ラプソディー

葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。 しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが── エブリスタにも投稿しています。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

処理中です...