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「でもさ、楓さんって……」
昼間の、怒りを滲ませた楓の顔が、ふと頭をよぎる。
「ん?」
「あ……いや、楓さんって、昔っからそんな感じだったんだ」
「そうだな、あいつは昔っから、ぶっ飛んでたぞ。そうそう、一度家出騒動を起こしたことがあって──」
仕返しとばかりに、楓の黒歴史らしき話を暴露する北野は、楽しそうにくすくす笑った。
(でも……楓さんは、たぶん本気で北野さんのことが好きなんだ)
夏樹を脅した時の楓は、本気だったと思う。
その高校生の頃に、キスをして愛情が湧いたのか、元からあった愛情が深くなったのかは分からない。でも、北野が黒歴史と言うそのキスは、楓にとっては大切な思い出なのではないかと、夏樹は思った。
「変装して、こっそり俺の大学に来たこともあったな。結局バレて大騒ぎになった。全く何がしたいんだか」
可笑しそうに笑う北野は、楓に対して恋愛感情はなさそうに見えた。それどころか、楓の本当の気持ちに気付いてすらいないのかもしれない。楓のことになるとこんなに屈託なく笑えるのも、ただ弟のように気を許しているからなのだろう。
北野は笑った目元を拭おうとして、眼鏡を外し、そのまま胸のポケットに入れた。きれいな切長の二重の端が、わずかに濡れている。
「でもな、楓は基本的にいい奴なんだ。俺もあいつがいてくれたお陰で、助けられたところが多い。あまり、悪く思わないでやって欲しい」
北野はそう言うと、少し眉を下げた。
「あの……うちも、一緒」
「え?」
「うちもね、両親離婚してるんだ。小学校の時」
両親が離婚した時、父母は共に夏樹を引き取りたがらなかった。預かってくれる親戚もすぐには見つからず、施設に預けられた経緯がある。
「俺ひとりっ子だし、親戚付き合いもほとんどなかったからさ。年の近い、いとことかいたらいいなぁって、いつも思ってた。北野さん、兄弟は?」
「いや、俺もひとりっ子だ」
「そうなんだ。一緒だね、何か嬉しい」
夏樹は、ふふっと笑って手元の酒を飲んだ。
昼間の、怒りを滲ませた楓の顔が、ふと頭をよぎる。
「ん?」
「あ……いや、楓さんって、昔っからそんな感じだったんだ」
「そうだな、あいつは昔っから、ぶっ飛んでたぞ。そうそう、一度家出騒動を起こしたことがあって──」
仕返しとばかりに、楓の黒歴史らしき話を暴露する北野は、楽しそうにくすくす笑った。
(でも……楓さんは、たぶん本気で北野さんのことが好きなんだ)
夏樹を脅した時の楓は、本気だったと思う。
その高校生の頃に、キスをして愛情が湧いたのか、元からあった愛情が深くなったのかは分からない。でも、北野が黒歴史と言うそのキスは、楓にとっては大切な思い出なのではないかと、夏樹は思った。
「変装して、こっそり俺の大学に来たこともあったな。結局バレて大騒ぎになった。全く何がしたいんだか」
可笑しそうに笑う北野は、楓に対して恋愛感情はなさそうに見えた。それどころか、楓の本当の気持ちに気付いてすらいないのかもしれない。楓のことになるとこんなに屈託なく笑えるのも、ただ弟のように気を許しているからなのだろう。
北野は笑った目元を拭おうとして、眼鏡を外し、そのまま胸のポケットに入れた。きれいな切長の二重の端が、わずかに濡れている。
「でもな、楓は基本的にいい奴なんだ。俺もあいつがいてくれたお陰で、助けられたところが多い。あまり、悪く思わないでやって欲しい」
北野はそう言うと、少し眉を下げた。
「あの……うちも、一緒」
「え?」
「うちもね、両親離婚してるんだ。小学校の時」
両親が離婚した時、父母は共に夏樹を引き取りたがらなかった。預かってくれる親戚もすぐには見つからず、施設に預けられた経緯がある。
「俺ひとりっ子だし、親戚付き合いもほとんどなかったからさ。年の近い、いとことかいたらいいなぁって、いつも思ってた。北野さん、兄弟は?」
「いや、俺もひとりっ子だ」
「そうなんだ。一緒だね、何か嬉しい」
夏樹は、ふふっと笑って手元の酒を飲んだ。
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