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◇
午後の勤務が始まってからも、隣は空席のままだった。
夏樹は内心ほっとして目の前の仕事に集中するものの、1時間たっても2時間たっても北野が戻ってこない。楓は帰ったとして、どうして北野は戻ってこないのだろう。
今度は別の意味で気になってしまった夏樹は、午後3時を回ってとうとうパーティションの向こうに声をかけた。
「あの……阪木さん。北野さんは、どうかしたんですか?」
「え? ああ、北野君は開発の方に行ってもらってるよ。別件のね、まだ試作段階の製品の件で呼ばれてね。聞いてない?」
「あ、いえ……そうですか」
「開発が北野君欲しがっててねー。しばらく掛け持ちになりそうだね」
「そうなんですか」
「何、寂しいの? 最近、仲良さそうだもんね」
「別にっ、そんなことないですから」
「そう? ま、仲良くしてくれるのはいいことだよ。職場の雰囲気も大事だからねー」
うんうんと頷いて、阪木は視線を自身のパソコンに戻す。そういえば昼休憩の時に、開発の男性が北野を呼びに来ていた。何だそうか、と夏樹はほっと息を吐いて、空席の隣をちらりと見た。
北野が戻って来たのは、就業時間を過ぎてからだった。阪木が労いの声をかける。
「北野君、お疲れ! どうだった?」
北野が、夏樹の後ろを通って自席に戻る。
「そうですね、まだ大幅に改良するみたいなんで、何とも……」
「そうなんだ。これからもちょくちょく呼び出しかかりそうだから、よろしくねー」
「はい」
そのまま席を立った阪木を見送った北野は、夏樹に視線を向けた。
「……杉本」
思わず体を固くしながら手早く帰り支度をする夏樹に、北野が遠慮がちに声をかける。
「杉本、あの……今日これから空いてないか? ちょっと話がしたいんだが」
「え?」
夏樹が驚いて、北野を見る。
「昼間のことなら、俺は別に、」
「いや、結局、昼も食べてないだろう? 本当に申し訳なかった。食事でもしながら、少し話しておきたいこともあるから」
「……話って」
「悪い、ここじゃちょっと」
「……分かりました」
「良かった」
北野が、ほっとしたように眉を下げた。
午後の勤務が始まってからも、隣は空席のままだった。
夏樹は内心ほっとして目の前の仕事に集中するものの、1時間たっても2時間たっても北野が戻ってこない。楓は帰ったとして、どうして北野は戻ってこないのだろう。
今度は別の意味で気になってしまった夏樹は、午後3時を回ってとうとうパーティションの向こうに声をかけた。
「あの……阪木さん。北野さんは、どうかしたんですか?」
「え? ああ、北野君は開発の方に行ってもらってるよ。別件のね、まだ試作段階の製品の件で呼ばれてね。聞いてない?」
「あ、いえ……そうですか」
「開発が北野君欲しがっててねー。しばらく掛け持ちになりそうだね」
「そうなんですか」
「何、寂しいの? 最近、仲良さそうだもんね」
「別にっ、そんなことないですから」
「そう? ま、仲良くしてくれるのはいいことだよ。職場の雰囲気も大事だからねー」
うんうんと頷いて、阪木は視線を自身のパソコンに戻す。そういえば昼休憩の時に、開発の男性が北野を呼びに来ていた。何だそうか、と夏樹はほっと息を吐いて、空席の隣をちらりと見た。
北野が戻って来たのは、就業時間を過ぎてからだった。阪木が労いの声をかける。
「北野君、お疲れ! どうだった?」
北野が、夏樹の後ろを通って自席に戻る。
「そうですね、まだ大幅に改良するみたいなんで、何とも……」
「そうなんだ。これからもちょくちょく呼び出しかかりそうだから、よろしくねー」
「はい」
そのまま席を立った阪木を見送った北野は、夏樹に視線を向けた。
「……杉本」
思わず体を固くしながら手早く帰り支度をする夏樹に、北野が遠慮がちに声をかける。
「杉本、あの……今日これから空いてないか? ちょっと話がしたいんだが」
「え?」
夏樹が驚いて、北野を見る。
「昼間のことなら、俺は別に、」
「いや、結局、昼も食べてないだろう? 本当に申し訳なかった。食事でもしながら、少し話しておきたいこともあるから」
「……話って」
「悪い、ここじゃちょっと」
「……分かりました」
「良かった」
北野が、ほっとしたように眉を下げた。
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