杉本君について

葉月凛

文字の大きさ
上 下
40 / 106

40

しおりを挟む
 楓が、何やら悪そうな顔で笑っている。きれいな顔でにやにやと見られて、夏樹は目が泳いだ。

「ええやろ? な、一緒に行こ」
「え、で、でも……」

 思いがけない展開に夏樹がおろおろしていると、北野が軽くため息をついた。

「しょーがねーな。杉本、良かったら一緒にどうだ?」
「えっ? ……あ、……えと」
「はい決まり! ほら、行くでぇ」

 他意などなさそうに気軽に誘ってくる北野に、夏樹がどうしたものかと言葉を濁していると、楓が半ば強引に決めてしまった。

 楓を先頭に廊下に出ると、途端に黄色い声に包まれる。そういえば、こちらに来る前に席に行ったと言っていたので、その存在はバレてしまっているようだ。

「──ほら。お前が来ると、迷惑がかかるんだよ」
「えー、ええやん。もう今日帰るんやし」

 北野と話しながらも楓は前回と同じように、にこにこと周りに手を振りながら応えている。その2人の後ろを、夏樹は居心地悪そうについて行った。

 人だかりの中でエレベーターを待っていると、離れたところから開発チームの男性の声が聞こえてきた。

「あ! 北野さん! ちょっと!」

 男性は北野に呼びかけながら、人を掻き分け近付いてくる。

「良かった、捕まえた! あのさ、今日で製品テスト終了だよね? ちょっと見て欲しいものがあるんだけど、来てくれないかな?」

 お昼にごめんね、と手を合わせながら北野を見ている。

「今ですか?」
「ごめん、すぐ済むから!」
「……わかりました。楓、先に行っててくれるか?」
「ええよー。ごゆっくり」
「悪いな、杉本。あとで行くから」
「あ、いえ……」

 北野が開発の男性に連れて行かれるのと同時に、エレベーターが到着する。開いた扉の中、既に乗っていた数人が、三國楓の姿にぎょっとして後退った。

「はいはい、ごめんねー」

 楓が夏樹の腕を掴んで、ぐいと引っ張り中に入る。
 一緒に乗り込もうとした女性社員の前でさっと体の向きを変えると、夏樹の体を盾にするように、ずいと扉近くに押し出した。

「はーい、ここまで! ご飯食べてくるから、また今度ねー」
「えー!」

 黄色いブーイングに、何故か楓が夏樹の手首を掴んで、ゆらゆらと無理矢理手を振らされる。扉が閉まる寸前に見えたのは、女性社員たちが夏樹に向けた、殺気のこもった視線だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

ブライダル・ラプソディー

葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。 しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが── エブリスタにも投稿しています。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

処理中です...