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◇
「ギリギリセーフ! 良かったぁ」
残りわずかなA定食に何とかありついた夏樹は、窓際の定位置で手を振っている桑原に歩み寄った。
同じコールセンターでも、操作説明など通話が長引きやすい製品サポートと違ってインフォメーションは時間通りに終わりやすく、桑原が先に来ていることの方が多い。
「杉本、お疲れー。ん? 何か機嫌いいな。そんなに天ぷら食いたかった?」
「おうよ、この天ぷらが……って、違げーよっ。そこまで食い意地張ってねーわ」
「うそくせー」
桑原を軽く殴った夏樹が、トレーをテーブルに置く。
「てか、俺、機嫌いい?」
「お前、分かりやすいんだよ。何かいいこと、あっただろ」
「いいことっていうか……先週、チームの飲み会があってさ」
桑原の向かいに腰を下ろした夏樹は、箸を取った。
「俺、北野さんと、ちょっと仲良くなれたかも」
「あの、北野悠里? さすが杉本。人たらしだねー」
桑原が、にやにやと笑う。
「そんなんじゃねーし。結構いい人だと思うよ」
「お前に言わせたら、悪人なんていねーって。それで、何か分かった?」
「うーん、あんま突っ込んでは聞けなかったから……あ、阪木さんにさ、あくまで噂話ってことで買収のこと聞いてみたら、近いうちに発表されるって。あと、リストラはないって言ってた」
「リーダーの阪木さん? そりゃそう言うだろ」
「そうなの?」
「人事のこと軽々しく言う訳ないって」
桑原が顔の前で軽く箸を振り、そのまま舞茸の天ぷらをつまむ。
「俺は十分あり得る話だと思うけどなぁ。何たって、あの北條だぜ? 現に、本社から査定が来てるんだし」
「あ、調査はしてるようなこと言ってたよ、北野さん」
「だろ?」
「いや、でも……何か、俺にとって悪い話じゃない、みたいなこと言ってたけど」
飲み会後半の記憶に自信は持てない夏樹だが、その辺りは、割としっかり覚えている。結局、自分にとっての『悪くない話』は、教えてもらっていない。
「ギリギリセーフ! 良かったぁ」
残りわずかなA定食に何とかありついた夏樹は、窓際の定位置で手を振っている桑原に歩み寄った。
同じコールセンターでも、操作説明など通話が長引きやすい製品サポートと違ってインフォメーションは時間通りに終わりやすく、桑原が先に来ていることの方が多い。
「杉本、お疲れー。ん? 何か機嫌いいな。そんなに天ぷら食いたかった?」
「おうよ、この天ぷらが……って、違げーよっ。そこまで食い意地張ってねーわ」
「うそくせー」
桑原を軽く殴った夏樹が、トレーをテーブルに置く。
「てか、俺、機嫌いい?」
「お前、分かりやすいんだよ。何かいいこと、あっただろ」
「いいことっていうか……先週、チームの飲み会があってさ」
桑原の向かいに腰を下ろした夏樹は、箸を取った。
「俺、北野さんと、ちょっと仲良くなれたかも」
「あの、北野悠里? さすが杉本。人たらしだねー」
桑原が、にやにやと笑う。
「そんなんじゃねーし。結構いい人だと思うよ」
「お前に言わせたら、悪人なんていねーって。それで、何か分かった?」
「うーん、あんま突っ込んでは聞けなかったから……あ、阪木さんにさ、あくまで噂話ってことで買収のこと聞いてみたら、近いうちに発表されるって。あと、リストラはないって言ってた」
「リーダーの阪木さん? そりゃそう言うだろ」
「そうなの?」
「人事のこと軽々しく言う訳ないって」
桑原が顔の前で軽く箸を振り、そのまま舞茸の天ぷらをつまむ。
「俺は十分あり得る話だと思うけどなぁ。何たって、あの北條だぜ? 現に、本社から査定が来てるんだし」
「あ、調査はしてるようなこと言ってたよ、北野さん」
「だろ?」
「いや、でも……何か、俺にとって悪い話じゃない、みたいなこと言ってたけど」
飲み会後半の記憶に自信は持てない夏樹だが、その辺りは、割としっかり覚えている。結局、自分にとっての『悪くない話』は、教えてもらっていない。
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