杉本君について

葉月凛

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          ◇

 北野の提案した分業作業のお陰か、2回目の製品テストは前回よりも結果が出た。

「お、杉本も今回は頑張ったねぇ。喜べ、中間報告では今のところうちがトップだ」

 お昼の時間になり、それなりの成果を提出する夏樹に、阪木が嬉しそうに告げた。

「やったね! よし、食券いただき」
「そこはギフト券だろー。俺、娘にぬいぐるみ買いたい」

 前回同様、迷わず食券を選択する夏樹に、阪木が笑う。

「何たって、俺には愛情たっぷりの愛妻弁当があるからねー。羨ましいだろ」

 ほれ、と言って弁当の包みを揺らす阪木に、夏樹は壁の時計を見た。

「あ! 早く行かないとA定食なくなっちゃう! 今日は天ぷらなんだよねー」

 阪木の愛妻弁当をさらっとスルーした夏樹は、鞄から財布とスマートフォンを取り出す。隣で、北野も席を立った。

「そういえば北野さんって、お昼いつもどこで食べてるの?」

 北野が昼休憩時に出かけているのは知っているが、社員食堂で見かけたことはない。
 デスクの上を片付けていた北野は、振り返って何気なく言った。

「昼は、上のラウンジでとってる」
「え、ラウンジ? ……って、最上階の?」

 このオフィスビルは、最上階にラウンジバーが入っている。夕刻から営業しているラウンジには一般客も来店可能で、酒と共に美味しい料理も提供されており、接待で利用している会社もあると聞く。

 同期の桑原などは上司と訪れているらしいが、夏樹には少々グレードが高く、まだ行ったことがなかった。

「あそこって、ランチもやってたんだ」
「パスタが旨いぞ」
「でも、高そう」
「いや、普通にランチ価格だったな」
「……ふーん。あっ」

 何となく値段を聞くのが怖くてやめた夏樹は、再度時計を見て焦る。

「ヤバっ、じゃあお先!」

 ランチに向かう人たちに紛れてオフィスを出ると、ちょうど閉まりかけたエレベーターが見えて、走って飛び乗った。

 社食のA定食のメニューで、天ぷらは上位3位に入る人気メニューだ。後れを取ってはならない。

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