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確かに、夏樹の応対は、ほとんどクレームがない。
コールセンターでは製品に対するクレームもさることながら、応対した『人』に対するクレームも多かったりする。
説明が下手、回答が的外れ、言い方が横柄、エトセトラ……会計ソフトのコールセンターでは操作に行き詰まって電話をかけてくる人が大半なので、着信した時点で既にイライラしている人も多い。
できなくてイライラしているところに、間違いを淡々と指摘されたり自分の理解を否定されると、誰だって腹が立つ。そんな状態の相手を理詰めで言いくるめようとすると、余計に怒りを買う。
夏樹はそんな毛羽立った雰囲気を電話越しに感じると、無意識のうちに和らげるような話し方になっているのだった。
「杉本は、根本的に優しいんだと思う」
「………」
ふと、懐かしいことを思い出した。
昔、少しだけお世話になった施設の寮母さんに、そんなことを言われたことがあった。
『──夏樹君は、優しい子ね』
小学校2、3年の頃か、喧嘩ばかりしていた夏樹の両親が離婚して、しばらくしてからだったと思う。今にして思えば、周囲の大人の感情には敏感な子供だった。
「……どうした?」
ふいに北野に覗き込まれて、夏樹がぱっと顔を上げる。目の前の北野の顔に、びくりと揺れた。
「あ、いや……あれ? 北野さん、その眼鏡って、伊達?」
間近にある北野の眼鏡には、度が入っていないように見えた。
「は? ああ、度は入ってないな。ブルーライトのカットにかけてる」
ふいと顔を背けた北野が、す、と眼鏡の位置を直した。しかし、パソコンのブルーライトカット用にしては、先日の飲み会など普段からかけている。
「そうなの? 眼鏡ない方が男前なのにー。もしかして、女性よけ? なんちって」
「そんな訳あるか」
くすりと笑った北野が自身のパソコンに向き直った。
「ほら、早くしないと時間がなくなるぞ」
「はーい」
ちらりと見た北野の口角は、緩やかに持ち上がっている。また一歩、北野に歩み寄れた気がして、何だか嬉しくなる夏樹だった。
コールセンターでは製品に対するクレームもさることながら、応対した『人』に対するクレームも多かったりする。
説明が下手、回答が的外れ、言い方が横柄、エトセトラ……会計ソフトのコールセンターでは操作に行き詰まって電話をかけてくる人が大半なので、着信した時点で既にイライラしている人も多い。
できなくてイライラしているところに、間違いを淡々と指摘されたり自分の理解を否定されると、誰だって腹が立つ。そんな状態の相手を理詰めで言いくるめようとすると、余計に怒りを買う。
夏樹はそんな毛羽立った雰囲気を電話越しに感じると、無意識のうちに和らげるような話し方になっているのだった。
「杉本は、根本的に優しいんだと思う」
「………」
ふと、懐かしいことを思い出した。
昔、少しだけお世話になった施設の寮母さんに、そんなことを言われたことがあった。
『──夏樹君は、優しい子ね』
小学校2、3年の頃か、喧嘩ばかりしていた夏樹の両親が離婚して、しばらくしてからだったと思う。今にして思えば、周囲の大人の感情には敏感な子供だった。
「……どうした?」
ふいに北野に覗き込まれて、夏樹がぱっと顔を上げる。目の前の北野の顔に、びくりと揺れた。
「あ、いや……あれ? 北野さん、その眼鏡って、伊達?」
間近にある北野の眼鏡には、度が入っていないように見えた。
「は? ああ、度は入ってないな。ブルーライトのカットにかけてる」
ふいと顔を背けた北野が、す、と眼鏡の位置を直した。しかし、パソコンのブルーライトカット用にしては、先日の飲み会など普段からかけている。
「そうなの? 眼鏡ない方が男前なのにー。もしかして、女性よけ? なんちって」
「そんな訳あるか」
くすりと笑った北野が自身のパソコンに向き直った。
「ほら、早くしないと時間がなくなるぞ」
「はーい」
ちらりと見た北野の口角は、緩やかに持ち上がっている。また一歩、北野に歩み寄れた気がして、何だか嬉しくなる夏樹だった。
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