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◇
「──じゃあ、俺は消費税と決算関係のチェックをするから、杉本は帳簿と伝票を見てくれ」
「了解ー」
今日は午前中に2回目の製品テストが入っていた。別室に移動しパソコンを立ち上げた北野から早々に役割分担を提案され、夏樹は素直に頷く。
何気に難しい方を北野が担当し、簡単な方を自分に回された気がするが、そこはあえて突っ込まない。実際、北野は製品を熟知している。
「北野さんてさ、ずっと本社? 製品サポートは初めて?」
「そうだが、何だ?」
眼鏡の奥の視線はパソコン画面に向いたまま、北野が答える。
「だよねぇ、本社にコールセンターないもんね。製品の勉強って、研修とかで?」
すると、手を止めた北野が振り返った。
「あ、ごめん、続けて。いやほら、北野さんて製品のことめっちゃ詳しいからさ」
入社3年間のコールセンター勤務は支社の場合であり、本社組にこういった制度はないと聞いている。
「研修というのは受けてないが、ここに来る前にマニュアルを読んだぞ」
「え、読んだだけ?」
「ここのマニュアルはすごく分かりやすいな。仕様書も読んだが、開発が優秀なんだと思う」
「……ふーん」
製品サポートのコールセンターに勤務するに当たって、夏樹は研修を受けてマニュアルもかなり読み込んだ方だと思うが、それでも分からないことだらけだった。ソフトの仕様に合わせて会計知識も必要になるので、やっかいなのだ。
ユーザー向けのマニュアルでさえ苦戦したのに、開発目線で書かれた仕様書は専門用語も多くて、実はあまり読めていない。同期の桑原などは、熟読していたが。
「……北野さんて、頭もいいよね」
「? どうしたんだ?」
ため息混じりの夏樹の声に、北野が首を傾げる。
「俺なんて、製品サポート2年目だよ? それなのに、ちょっとマニュアル読んだだけの北野さんの方が、はるかに製品のこと詳しいよ」
すると、北野が椅子ごとくるりとこちらを向いた。
「あのなぁ、コールセンターの仕事って、そういうんじゃないだろ。ユーザーの話を聞く能力の方が、製品知識よりよっぽど大事だと思うぞ。杉本は話を聞くのが上手いし、答え方も上手だ。だからクレームもないんだろうな」
「………」
「──じゃあ、俺は消費税と決算関係のチェックをするから、杉本は帳簿と伝票を見てくれ」
「了解ー」
今日は午前中に2回目の製品テストが入っていた。別室に移動しパソコンを立ち上げた北野から早々に役割分担を提案され、夏樹は素直に頷く。
何気に難しい方を北野が担当し、簡単な方を自分に回された気がするが、そこはあえて突っ込まない。実際、北野は製品を熟知している。
「北野さんてさ、ずっと本社? 製品サポートは初めて?」
「そうだが、何だ?」
眼鏡の奥の視線はパソコン画面に向いたまま、北野が答える。
「だよねぇ、本社にコールセンターないもんね。製品の勉強って、研修とかで?」
すると、手を止めた北野が振り返った。
「あ、ごめん、続けて。いやほら、北野さんて製品のことめっちゃ詳しいからさ」
入社3年間のコールセンター勤務は支社の場合であり、本社組にこういった制度はないと聞いている。
「研修というのは受けてないが、ここに来る前にマニュアルを読んだぞ」
「え、読んだだけ?」
「ここのマニュアルはすごく分かりやすいな。仕様書も読んだが、開発が優秀なんだと思う」
「……ふーん」
製品サポートのコールセンターに勤務するに当たって、夏樹は研修を受けてマニュアルもかなり読み込んだ方だと思うが、それでも分からないことだらけだった。ソフトの仕様に合わせて会計知識も必要になるので、やっかいなのだ。
ユーザー向けのマニュアルでさえ苦戦したのに、開発目線で書かれた仕様書は専門用語も多くて、実はあまり読めていない。同期の桑原などは、熟読していたが。
「……北野さんて、頭もいいよね」
「? どうしたんだ?」
ため息混じりの夏樹の声に、北野が首を傾げる。
「俺なんて、製品サポート2年目だよ? それなのに、ちょっとマニュアル読んだだけの北野さんの方が、はるかに製品のこと詳しいよ」
すると、北野が椅子ごとくるりとこちらを向いた。
「あのなぁ、コールセンターの仕事って、そういうんじゃないだろ。ユーザーの話を聞く能力の方が、製品知識よりよっぽど大事だと思うぞ。杉本は話を聞くのが上手いし、答え方も上手だ。だからクレームもないんだろうな」
「………」
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