杉本君について

葉月凛

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 酔っ払いは感情の推移も激しい。
 今度はまた楽しくなってきた夏樹は、新しいハイボールに手を伸ばした。

「杉本、ペース早いぞ」
「平気、平気。北野さん、飲んでる? ほら」

 北野が苦笑しつつ、夏樹に勧められるままにグラスを空ける。

「お、いい飲みっぷり! 男前ー」

 へらりと笑う夏樹の耳に、ふと向かいの会話が聞こえてきた。

 向かいの阪木の周りでは、ペットは犬派か猫派か論争が巻き起こっていた。後輩の男性社員2人は、飼っているペットがそれぞれ犬と猫に分かれるらしく、画像の見せ合いが続いている。トイプードルとアメリカンショートヘアの戦いは、トイプードルがやや優勢のようだった。

 夏樹は断然、猫派だ。猫の可愛さは、もはや正義だと思っている。

 夏樹自身は猫を飼っていないのだが、スマートフォンには街中で見かけた可愛い猫たちの画像が、たくさん保存してあった。道端で猫を見かけたら、寄っていくタイプだ。

(この前出勤途中で、めっちゃ可愛い子猫がいたんだよね。あの時撮った写真、見せようかな)

 酔っ払いは興味の対象がころころと変わる。
 夏樹が思わず犬猫論争に参戦しようと腰が浮きかけたその時、ふと北野が自分の猫好きを、何故か知っていたことを思い出した。

「あっ、そうそう北野さん。あのさぁ、俺がさぁ、猫──」

 そこまで言いかけて、北野のメールはこっそり盗み見ていたことを唐突に思い出した。こんな風に、『猫好きを知っている理由』を堂々と聞けるような立場ではない。

(あっぶねぇ! うっかり本人に聞くとこだった)

「──ネコ?」

 北野が少し驚いたように、こちらを見ている。

「あっ、えーと……北野さんて、猫はお好き? なんちって」
「………」
「俺はさ、断然猫なの。猫大好きなんだよねー。やっぱ、猫はいいよね! あはは。……コールセンター慣れた?」

(……あれ? 何か怪しまれてる? いや、大丈夫だ!)

 寸前で気が付いた自分を褒めてやりたいと思いつつ、強引に話題を変える夏樹だった。

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