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芽生えた不快感を紛らわすように、夏樹は目の前の枝豆をつまんだ。ちょっと強めに、ぷ、とさやから押し出して口に入れる。好みの塩加減だった。
「北野さんてさ、本社ではどんなポジションだったの?」
「ポジション?」
「だってさ、こんな時期に異動なんて、ましてや総務から製品サポートなんて、おかしいじゃん。……何か秘密の役目があったりして?」
ほとんど桑原の受け売りを口にする夏樹は、すっかり敬語も外れ、少々嫌味な聞き方になってしまった。北野が怪訝そうに首を傾げる。
「秘密の役目って、何だ?」
「そうだねぇ、例えば──」
思わず『リストラ査定』と言いかけて、眼鏡の奥でスッと細められた目に、すんでのところで言葉を止める。この話は、内緒だった。
「例えば、えーと……」
少し目を泳がせた夏樹が、酔った頭で絞り出す。
「……つ、かい込みの調査、とか?」
「コールセンターでか?」
「……ねーか」
「ねーな」
北野がくすりと口元を緩めた。
「ま、調査っていうのは、いい線いってるかな」
「え、そうなの? 何の調査?」
意外な反応に、瞬時にもやもやを忘れた夏樹が、ぱっと北野を見る。
「じきに分かるよ。お前にとって悪い話じゃないと思うぞ」
「えー、なになに! 気になる!」
夏樹が北野の腕を掴んで揺さぶる。北野は揺れる腕が当たらないように、テーブルのグラスをよけた。
「やめろって。杉本って酒弱いのか? 酔ってるだろ」
「酔ってないよー。俺、酒強いし」
「酔ってる人間は大抵そう言うんだよ。お前、もうお茶飲んどけ」
「えぇ、やだよ」
「やだよ、じゃねーよ、子供か。……ははっ」
呆れたように笑う北野を、夏樹はじっと見つめた。
「……笑った」
「は?」
「やっと、笑った」
夏樹が北野から手を離して、へにゃりと眉を下げた。
「北野さん、ぜんぜん笑わねーんだもん。……三國楓には笑うくせに」
最後はぼそりと言う夏樹を、北野が不思議そうに見る。
「あー、何かすっきりした! よし、飲もう!」
「……笑ってなかったか? 俺」
「そうだよー。てか、まさかの無自覚? でももういいし! 北野さんも、おかわりいるよね? すみませーん」
夏樹は上機嫌で店員を呼ぶと、2人分のおかわりを頼んだ。
「北野さんてさ、本社ではどんなポジションだったの?」
「ポジション?」
「だってさ、こんな時期に異動なんて、ましてや総務から製品サポートなんて、おかしいじゃん。……何か秘密の役目があったりして?」
ほとんど桑原の受け売りを口にする夏樹は、すっかり敬語も外れ、少々嫌味な聞き方になってしまった。北野が怪訝そうに首を傾げる。
「秘密の役目って、何だ?」
「そうだねぇ、例えば──」
思わず『リストラ査定』と言いかけて、眼鏡の奥でスッと細められた目に、すんでのところで言葉を止める。この話は、内緒だった。
「例えば、えーと……」
少し目を泳がせた夏樹が、酔った頭で絞り出す。
「……つ、かい込みの調査、とか?」
「コールセンターでか?」
「……ねーか」
「ねーな」
北野がくすりと口元を緩めた。
「ま、調査っていうのは、いい線いってるかな」
「え、そうなの? 何の調査?」
意外な反応に、瞬時にもやもやを忘れた夏樹が、ぱっと北野を見る。
「じきに分かるよ。お前にとって悪い話じゃないと思うぞ」
「えー、なになに! 気になる!」
夏樹が北野の腕を掴んで揺さぶる。北野は揺れる腕が当たらないように、テーブルのグラスをよけた。
「やめろって。杉本って酒弱いのか? 酔ってるだろ」
「酔ってないよー。俺、酒強いし」
「酔ってる人間は大抵そう言うんだよ。お前、もうお茶飲んどけ」
「えぇ、やだよ」
「やだよ、じゃねーよ、子供か。……ははっ」
呆れたように笑う北野を、夏樹はじっと見つめた。
「……笑った」
「は?」
「やっと、笑った」
夏樹が北野から手を離して、へにゃりと眉を下げた。
「北野さん、ぜんぜん笑わねーんだもん。……三國楓には笑うくせに」
最後はぼそりと言う夏樹を、北野が不思議そうに見る。
「あー、何かすっきりした! よし、飲もう!」
「……笑ってなかったか? 俺」
「そうだよー。てか、まさかの無自覚? でももういいし! 北野さんも、おかわりいるよね? すみませーん」
夏樹は上機嫌で店員を呼ぶと、2人分のおかわりを頼んだ。
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