杉本君について

葉月凛

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 電源の落ちた隣のパソコンをぼんやりと見つめる。

(……てか、笑えるんじゃん。俺には笑ったことないけど)

 夏樹は、これまで北野の笑顔を見たことがなかった。
 仲良くなろうとして冗談も言ってみたりしたが、成功した試しはない。それは夏樹に限ったことではなく他の人に対しても同じだったので、基本的に笑わないスタンスなのかと半ば諦めていたのだった。

(……すごく楽しそうに、笑ってたな)

 さっきの笑顔を思い出し、何となく釈然としない気持ちになる。

(……何だよ)

 何とも言い難い気持ちが込み上げているところに、仕事を終えたらしい桑原がやって来た。

「お疲れ! なぁ今、三國楓、来てなかった?」
「来てたよ。北野さんと、帰った。……知り合いみたいだよ」
「え! 嘘、知り合いなの? マジかぁー。てかさ、本物ってやっぱキレーのな。一瞬しか見れなかったよー、残念! なぁ、近くで見た?」

 三國楓は中性的な外見をしていて、男性ファンもそこそこ多い。

「何、桑原ってファンだったの? 隣に来たから割と近くで見たけど……あのさ」
「別にファンって程じゃないけどさ。なぁ、写真撮った?」

 目を輝かせる桑原は、少しミーハーなところがある。

「撮ってねーよ。てかさ、もう帰れんだろ? ちょっと飲みに行かね?」

 よく分からないが、何だか胸がもやもやする。こういう時は、気心の知れた桑原に話を聞いてもらうのがいちばんだ。

「あ、悪りー。俺、今日デート。……一緒に来てもいいけど?」
「っ、ねーよ! さっさと帰れ、バーカ」
「ははっ、ひでぇ。じゃーお先」

 足取り軽く帰って行く桑原にため息をついていると、阪木から声がかかった。

「杉本ぉ、飲みに行くのはいいが、明日の金曜、チームの飲み会だからな? 続くぞー」
「……そうでした」

 阪木の指摘に、苦笑いをする。

「お前、最近おかしいからな。愚痴があるんなら、明日ゆっくり聞いてやるよ」

 そう言う阪木は、飲みの席になると娘自慢が止まらないことで有名だ。

「ありがとうございますー」

 夏樹は乾いた笑顔と共に、期待せずに頷いたのだった。

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