杉本君について

葉月凛

文字の大きさ
上 下
22 / 106

22

しおりを挟む
「お前、ほんとに相変わらずだな。……ははっ」

 夏樹が妙なところに感心していると、ふいに北野が笑い出し、楓の頭をくしゃりと撫でた。

(え……)

 ドキリとして、北野の顔に釘付けになる。笑った顔を、初めて見た。

 眼鏡を外していたので、目元の表情もはっきりと見える。二重の切長の目が細められ、目尻に微かな皺が寄っていた。口角が持ち上がり、並びのいい白い歯がくっきり見える。バランスのいい顔だと思っていたが、笑うとそれが更に際立つ。初めて見た北野の笑顔は──想像以上に、きれいだった。

(……こんな風に笑うんだ)

 楽しそうに笑う北野に、楓もにこにこと嬉しそうにしている。2人でしばらく談笑したあと、北野は席を立った。

「ほら、行くぞ。お前がいたら目立ってしょうがない」

 北野は言いながら、デスクの上をさっと片付ける。見ると、遠巻きながらかなりの人数が集まってきていた。

 行こうとする北野の腕を、楓が掴む。

「あっ、待って。ちゃうねん──なぁ、杉本夏樹って、どの子? 俺、その子に会いに来てん」
「えっ」

 後半はひそっと囁いた楓だが、真横にいた夏樹には、はっきり聞こえてしまった。驚いた声に、楓が振り返る。

「ん? もしかして、きみ? きみが、杉本夏樹クン?」
「え……そう、ですけど……あの」
「えー、きみがそうなん? うそぉ、ほんまぁ? 何てゆうか……フツー」
「っ、あの」
「あっ、別に悪い意味ちゃうで! ちょおっと思てたんと違ごたから……ふーん」

 じろじろと見られて、途端に居心地が悪くなる。
 北野が、楓を促した。

「ほら、もういいだろう。行くぞ」
「待って、もうちょいええやろ? だってほら、未来の──」
「楓、」
「あーはいはい。じゃあまたねー、夏樹クン」

 楓は、ひらひらと気安く手を振りながら、北野と共にその場をあとにした。黄色い悲鳴と共にざわめきが離れていく。

 ようやくオフィスがいつもの雰囲気を取り戻した頃、夏樹の心には、楓のこともさることながら、北野の笑顔がしこりのように残った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ブライダル・ラプソディー

葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。 しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが── エブリスタにも投稿しています。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...