杉本君について

葉月凛

文字の大きさ
上 下
21 / 106

21

しおりを挟む
「どこにいてんのー? ゆりちゃーん」

 きょろきょろと周りを見回した楓は、夏樹の方向を見てパッと笑顔になった。

「あ! もう、こんなとこにおるやん。ええ、ほんまに仕事してんの? ウケるー」

 楓は真っ直ぐにこちらにやって来ると、呆然としている夏樹の後ろをするりと通り過ぎて、隣の席の北野の肩に腕を回してしなだれかかった。

「ゆりちゃん、久しぶりー。何この眼鏡、変装してんの? 似おてへんし」

 言いながら北野の眼鏡を取り上げた楓が、けたけた笑う。

「おい」

 北野が眼鏡を取り返して、そのまま胸ポケットに入れた。

(え、ゆりちゃんって、北野さんのこと? 北野悠里……ゆうり、でゆりちゃんか)

 夏樹は不思議な取り合わせの2人を見る。
 北野は軽くため息をついて、楓のスカジャンをつまんだ。

「こっちに来るなら、連絡くらい寄こせよな。それから勝手に入ってくんな。何だ、その趣味の悪い服は」
「えー、ちゃんと受付でゆうてきたし。これ、可愛いやろ? 俺、ヒョウ柄大好き! 見て見て、靴とお揃いやねん。両方セットでニーキュッパやで」

 普段周りに関西圏の人間がいない夏樹は関西弁を新鮮に思いながら、隣で長い足をひょいと持ち上げる楓の足先を見た。なる程、スニーカーもスカジャンと同じヒョウ柄だ。

(三國楓って、京都出身だっけ。ニーキュッパって……え、もしかして、29万? サラッとすごい金額言うんだな。さすが売れっ子モデル)

 住む世界が違う、と夏樹はしげしげと眺める。どこのブランドだろうか、上品なヒョウ柄だ。

「お前なぁ。そんなもんに2万9千円も出したのか」

 北野が呆れた声を出す。

(ん?)

「何ゆーてんの! ちゃうちゃう、2千980円! めっちゃ安いやろー、大阪の商店街でうてん」
「えぇっ!?」

 思わず声を出した夏樹に、楓が振り返る。

「ん? なっ、お買い得や思えへん? 俺って買いもん上手ー」

 値段に驚かれたのが嬉しかったのか、楓が人懐っこく笑う。テレビで見るあけっぴろげな性格は元々のようだ。

 三國楓が着ているからブランド物だろうという先入観もあったが、見栄えのいいモデルが着ると安い服でもこんなに高価そうに見えるのかと、夏樹は内心で唸った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

ブライダル・ラプソディー

葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。 しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが── エブリスタにも投稿しています。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

処理中です...