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その日の午後は、またもや気もそぞろに業務する夏樹に、リーダーの阪木はパーティションの向こうでたびたび眉をひそめていた。
物言いたげな阪木と目が合うたびに、はっとして姿勢を正すのだが、気が付くと添付写真のことを思い出してしまう。あの写真は、我ながら満面の笑みだった。
隣の席で、悩みの根源である北野はいつも通り姿勢良く、電話応対をしていた。
(……でも、悪意は、なさそうなんだよなぁ)
北野は人に馴染むタイプではないが、真面目だし仕事もできる。メールの真意は定かではないが、内部的な人事評価だと言われてしまえば、そうなのかとも思う。それでもあの写真の意味は、分からないが。
阪木の視線をたびたび感じながら、やっぱり気もそぞろに午後の勤務をこなす夏樹だった。
「お疲れ様でしたー、お先に失礼しますー」
気が付くと、終業時間の5時半になっていた。コールセンターのおよそ半分は派遣社員で、彼、彼女らは時間になると先に帰ってゆく。かくいう夏樹たち正社員も、コールセンター勤務の間は残業はほとんどないのでありがたい。
「お疲れ様でしたー」
夏樹もにこやかに挨拶を返しながら、ヘッドセットを外して大きく伸びをした。
(うーん、肩が凝った。久しぶりにマッサージでも行くかな……ん?)
肩をぐるぐる回していると、帰った筈の派遣社員の女性たちがバタバタと戻って来る。廊下からはこの場にそぐわない黄色い声まで聞こえてきた。中には、悲鳴に近いものまである。
「え、何?」
向かいの阪木とパーティション越しに目が合い首を傾げていると、廊下のざわめきはどんどん近付いて、部屋の中にひょっこりと入って来た。
「どーも、お邪魔しまーす。ゆりちゃん、いてる? ゆりちゃーん」
一斉に注目を集めたその人物に、女性社員の1人が叫んだ。
「えっ、あれって……三國楓!?」
終業後のオフィスが、一瞬でざわめき立つ。
飄々と入って来たのは、テレビコマーシャルやポスターでも目にする人気モデルの三國楓、その人だった。
黒のスキニージーンズに白地のシャツ、その上に何とも派手なヒョウ柄のスカジャンを羽織っている。
「嘘っ、何でこんなとこにいんの! 本物!?」
「あっ、写真、写真っ」
慌ててスマートフォンを向ける女性社員に、にっこりと振り返ってポーズを決めながら、楓はずかずかとオフィスに入って来た。
その日の午後は、またもや気もそぞろに業務する夏樹に、リーダーの阪木はパーティションの向こうでたびたび眉をひそめていた。
物言いたげな阪木と目が合うたびに、はっとして姿勢を正すのだが、気が付くと添付写真のことを思い出してしまう。あの写真は、我ながら満面の笑みだった。
隣の席で、悩みの根源である北野はいつも通り姿勢良く、電話応対をしていた。
(……でも、悪意は、なさそうなんだよなぁ)
北野は人に馴染むタイプではないが、真面目だし仕事もできる。メールの真意は定かではないが、内部的な人事評価だと言われてしまえば、そうなのかとも思う。それでもあの写真の意味は、分からないが。
阪木の視線をたびたび感じながら、やっぱり気もそぞろに午後の勤務をこなす夏樹だった。
「お疲れ様でしたー、お先に失礼しますー」
気が付くと、終業時間の5時半になっていた。コールセンターのおよそ半分は派遣社員で、彼、彼女らは時間になると先に帰ってゆく。かくいう夏樹たち正社員も、コールセンター勤務の間は残業はほとんどないのでありがたい。
「お疲れ様でしたー」
夏樹もにこやかに挨拶を返しながら、ヘッドセットを外して大きく伸びをした。
(うーん、肩が凝った。久しぶりにマッサージでも行くかな……ん?)
肩をぐるぐる回していると、帰った筈の派遣社員の女性たちがバタバタと戻って来る。廊下からはこの場にそぐわない黄色い声まで聞こえてきた。中には、悲鳴に近いものまである。
「え、何?」
向かいの阪木とパーティション越しに目が合い首を傾げていると、廊下のざわめきはどんどん近付いて、部屋の中にひょっこりと入って来た。
「どーも、お邪魔しまーす。ゆりちゃん、いてる? ゆりちゃーん」
一斉に注目を集めたその人物に、女性社員の1人が叫んだ。
「えっ、あれって……三國楓!?」
終業後のオフィスが、一瞬でざわめき立つ。
飄々と入って来たのは、テレビコマーシャルやポスターでも目にする人気モデルの三國楓、その人だった。
黒のスキニージーンズに白地のシャツ、その上に何とも派手なヒョウ柄のスカジャンを羽織っている。
「嘘っ、何でこんなとこにいんの! 本物!?」
「あっ、写真、写真っ」
慌ててスマートフォンを向ける女性社員に、にっこりと振り返ってポーズを決めながら、楓はずかずかとオフィスに入って来た。
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