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「──あ、見っけ! 北野さん、いい? 総勘定元帳の取引金額のところさ、右クリックの電卓表示が出るとこと出ないとこがある」
静かな部屋で、隣に座った北野がパソコンをカタカタと操作しながら確認する。製品テストは、お互いが見つけた箇所をお互いに試して、本当に誤作動か確かめながら行うことになっている。
「──ちゃんと出るぞ。どこのことを言ってる? ……これは、振替伝票の画面から入れているから、元々出ないんだ」
夏樹のパソコンを覗き込んだ北野が、冷静に指摘する。
「え? ……ああ、そうでした……すみません」
夏樹はそそくさと画面を閉じた。
静かな部屋に、カタカタとパソコンをいじる音だけが、しばらく響く。
「……あ。ねぇ、科目リストの画面で、印刷ボタンのプレビューが出ない」
「──区分を選んでないんじゃないか?」
「っ、……出ました」
ユーザーレベルの指摘を続ける夏樹に、北野が冷ややかな視線を投げる。その顔には、『お前ほんとに2年目か?』と書いてある。
「……数打つタイプなんだよね、俺って。あはは……がんばろ」
昨年は製品サポート1年目だったし、阪木に突っ込まれながらも楽しくチェックした記憶があるが、今回はそうはいかないらしい。
(それにしても……ぜんぜん笑わないのな、北野さんって)
夏樹は、隣で姿勢良く画面を眺める北野をちらりと見る。
(あのメールを見る限り、嫌われてる訳じゃなさそうだけど……)
将来有望かはさておいて、協調性があり、ムードメーカーと書いてあった。てっきり好かれていると思った夏樹が歩み寄りを試みたものの、今のところ撃沈している。
(……眼鏡で分かんなかったけど、よく見ると整った顔してるんだな。おでこ出したらいいのに)
目元を隠すように伸びた前髪と眼鏡が邪魔だが、よく見るとすっきりした顔立ちだし、鼻筋がすらりとして肌もきれいだ。これで笑うと、さぞかしモテるだろう。
対する夏樹は、自分のことを良くも悪くも十人並みの容姿だと思っているし、それは良くも悪くも正しい認識だった。
「──あ、見っけ! 北野さん、いい? 総勘定元帳の取引金額のところさ、右クリックの電卓表示が出るとこと出ないとこがある」
静かな部屋で、隣に座った北野がパソコンをカタカタと操作しながら確認する。製品テストは、お互いが見つけた箇所をお互いに試して、本当に誤作動か確かめながら行うことになっている。
「──ちゃんと出るぞ。どこのことを言ってる? ……これは、振替伝票の画面から入れているから、元々出ないんだ」
夏樹のパソコンを覗き込んだ北野が、冷静に指摘する。
「え? ……ああ、そうでした……すみません」
夏樹はそそくさと画面を閉じた。
静かな部屋に、カタカタとパソコンをいじる音だけが、しばらく響く。
「……あ。ねぇ、科目リストの画面で、印刷ボタンのプレビューが出ない」
「──区分を選んでないんじゃないか?」
「っ、……出ました」
ユーザーレベルの指摘を続ける夏樹に、北野が冷ややかな視線を投げる。その顔には、『お前ほんとに2年目か?』と書いてある。
「……数打つタイプなんだよね、俺って。あはは……がんばろ」
昨年は製品サポート1年目だったし、阪木に突っ込まれながらも楽しくチェックした記憶があるが、今回はそうはいかないらしい。
(それにしても……ぜんぜん笑わないのな、北野さんって)
夏樹は、隣で姿勢良く画面を眺める北野をちらりと見る。
(あのメールを見る限り、嫌われてる訳じゃなさそうだけど……)
将来有望かはさておいて、協調性があり、ムードメーカーと書いてあった。てっきり好かれていると思った夏樹が歩み寄りを試みたものの、今のところ撃沈している。
(……眼鏡で分かんなかったけど、よく見ると整った顔してるんだな。おでこ出したらいいのに)
目元を隠すように伸びた前髪と眼鏡が邪魔だが、よく見るとすっきりした顔立ちだし、鼻筋がすらりとして肌もきれいだ。これで笑うと、さぞかしモテるだろう。
対する夏樹は、自分のことを良くも悪くも十人並みの容姿だと思っているし、それは良くも悪くも正しい認識だった。
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