杉本君について

葉月凛

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          ◇

 どうも腑に落ちないまま、夏樹が財布とスマートフォンを手に社員食堂に行くと、今日も窓際のテーブル席に桑原が座っていた。

「おう、お疲れ。……お前、目の下すげークマだな」

 桑原と同じく本日のA定食、白身魚のムニエルをのせたトレーを向かいに置く。胃に優しいメニューが嬉しい。

 夏樹が席に着くと、桑原が早速身を乗り出した。

「それで、見たのか? メール」
「……見た。見たんだけど……何か、違う」
「え、何」
「何か……たぶん、褒めてあったんだけど」
「ん?」

 夏樹は、さっき見たメールの内容を桑原に伝える。おそらく、一言一句、合っている。

 桑原は肩の力を抜いたように、ほっとしていた。

「良かったじゃん! 褒めてるってことは、リストラ対象じゃないってことだよ」
「……そうかな?」
「そうだって! あー良かった。心配してたんだからな」
「……そうだよな! おぅ、良かったわ」

 桑原に改めてリストラを否定されて、ようやく夏樹は安心した。最近のリストラ査定はフェイク的に褒めて書くルールでもあるのかと、思わないでもなかった。

「何だよー、悩んで損したわ」

 ほっとした夏樹は、白身魚の身をほぐして口に入れる。レモン風味のバター醤油が口に広がり、思わず頬が綻んだ。

「お前、昨日寝てないんだろ。ま、ひと安心だな。宛先って、やっぱ本社だった?」
「あー、それな」

 メールを確認した時に、宛先も見ておいた。もぐもぐと魚を食べつつ、答える。

「北條だった」
「え?」
「アットマークの後ろ、ローマ字で、HOJOって入ってた」
「え、ドメインが北條? 誰宛か、分かるか?」
「アドレスにあったのは、MIKUNI……何とか? 文面に宛先はなかったな」

 サクラオフィスでは各自にメールが割り当てられていて、それぞれアドレスに名前が入っている。ドメインはサクラオフィスだ。

「何で、北條にお前の情報送ってんの? おかしくね?」
「え、そうかな」

 魚に続いて、わかめの味噌汁に口をつける。昨夜はあまり食欲が湧かなかったこともあり、とても美味しく感じた。

「メールって、誰か他の奴の分とかなかった? お前だけか?」
「あー、あんまじっくり見れてないけど……ぱっと見、俺だけだったかな」

 桑原は、うーん、と腕を組んだ。

「みくに……みくに……何か聞いたことがあるような……」

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