10 / 106
10
しおりを挟む
チームリーダーの阪木は、温和で面倒見がいい。今年32歳で、結婚していて1人娘を溺愛している。入社3年間のコールセンター業務のあと、そのままコールセンター勤務を希望したと聞いている。
「やだなー、何もないですよ」
夏樹がへらりと笑ってみせると、阪木は怪訝そうな顔をした。
「……そうか? 昨日もお前、変だったろ」
確かに、昨日の午後は散々だった。
あんなことを聞いたあとで電話に集中などできる筈もなく、何度も質問を聞き返してクレーム寸前までいったりもした。阪木にも何度かフォローしてもらい、自身のメンタルの弱さを思い知ったのだった。
「すみません、ちょっとこのところ寝不足気味で……でも大丈夫なんで」
「そうか。何かあったら、遠慮なく言えよ。作業効率落ちてるからな。もうちょっとペース上げてくれると助かる」
「はい、すみません」
阪木のパソコンは、チームメンバーの作業状況が確認できるようになっている。誰が何件処理したか、電話だと何分通話しているか、また離席の有無も把握できるようになっている。
話し終わったところで北野が帰って来たところみると、自分に注意するタイミングを見計らっていたのだろう。
いつも細かなところに気を配ってくれる阪木に、夏樹は全幅の信頼を寄せている。だが、心配してくれる阪木に申し訳ないと思いつつも、口止めされている以上リストラの件を相談する訳にもいかない。
というか、万が一にも阪木も承知の事実だとすると、もう立ち直れない。
(……仕事に集中しよう)
悶々と悩むのはやめた筈だ、自分にそう言い聞かせて、次の機会を待ちながら仕事に集中する夏樹だった。
それから黙々と仕事をこなし、気が付くと昼休憩の時間になっていた。気持ちを切り替えて頑張ったお陰で、メールの回答件数もかなり取り返した。
夏樹は、ちらりと隣を見た。
(あれからトイレも行かなかったな……仕方ない)
姿勢良く、一定速度でキーボードを打つ北野に目をやる。まだしばらくは、席にいそうだ。
また午後に機会を窺おうと休憩に入ろうとした夏樹がデスクの上を片付けていると、パーティションの向こうから阪木が顔を覗かせた。
「やだなー、何もないですよ」
夏樹がへらりと笑ってみせると、阪木は怪訝そうな顔をした。
「……そうか? 昨日もお前、変だったろ」
確かに、昨日の午後は散々だった。
あんなことを聞いたあとで電話に集中などできる筈もなく、何度も質問を聞き返してクレーム寸前までいったりもした。阪木にも何度かフォローしてもらい、自身のメンタルの弱さを思い知ったのだった。
「すみません、ちょっとこのところ寝不足気味で……でも大丈夫なんで」
「そうか。何かあったら、遠慮なく言えよ。作業効率落ちてるからな。もうちょっとペース上げてくれると助かる」
「はい、すみません」
阪木のパソコンは、チームメンバーの作業状況が確認できるようになっている。誰が何件処理したか、電話だと何分通話しているか、また離席の有無も把握できるようになっている。
話し終わったところで北野が帰って来たところみると、自分に注意するタイミングを見計らっていたのだろう。
いつも細かなところに気を配ってくれる阪木に、夏樹は全幅の信頼を寄せている。だが、心配してくれる阪木に申し訳ないと思いつつも、口止めされている以上リストラの件を相談する訳にもいかない。
というか、万が一にも阪木も承知の事実だとすると、もう立ち直れない。
(……仕事に集中しよう)
悶々と悩むのはやめた筈だ、自分にそう言い聞かせて、次の機会を待ちながら仕事に集中する夏樹だった。
それから黙々と仕事をこなし、気が付くと昼休憩の時間になっていた。気持ちを切り替えて頑張ったお陰で、メールの回答件数もかなり取り返した。
夏樹は、ちらりと隣を見た。
(あれからトイレも行かなかったな……仕方ない)
姿勢良く、一定速度でキーボードを打つ北野に目をやる。まだしばらくは、席にいそうだ。
また午後に機会を窺おうと休憩に入ろうとした夏樹がデスクの上を片付けていると、パーティションの向こうから阪木が顔を覗かせた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる