8 / 106
8
しおりを挟む
◆
──翌日。
珍しくあまり眠れない夜を過ごした夏樹は、遅刻ぎりぎりに出社した。慌ただしく席に着くと、努めてさり気なく隣に声をかける。
「おはよう……ございます」
「おはよう」
年上の人に対しても敬語とタメ口が混ざり気味な夏樹だが、北野に対しては極力気を付けようと思う。一応この部署では夏樹が先輩の立場だし、自分としては親しみを込めた結果の言葉遣いなのだが、相手にどう伝わっているのかは自信がない。
北野はじろりと目線を寄越し、すぐにパソコンに向かった。カタカタと何かを打ち込む様子に、どうしても自分の低評価を書かれているように思えてならない。
(やっぱ時間ギリは心証悪いよな……って、気にしたらだめだ。平常心、平常心……)
夏樹は深呼吸をして、パソコンの電源を入れた。
今日は、夏樹や北野を含む阪木チームはメール担当の日だ。コールセンターではメールでの問い合わせにも対応していて、チーム単位で担当が回ってくる。毎日ずっと電話応対ばかりだとストレスが溜まるので、いい気分転換にもなるのだった。
昨夜、改めて桑原と電話で話したが、『杉本』は、やはり自分のことのようだった。
本社の経理課に1人いることはいるが、40代の女性らしい。本社での北野の立場は分からないが、ひと回りも年上の女性に対して『君』付けは少々違和感があるし、今は支社にいる北野が彼女についてわざわざメールで報告する内容があるとも考えにくく、限りなく夏樹の可能性が高いとのことだった。
電話を切ってからも夏樹は悶々と考え、夜中の3時に桑原にメッセージを送った。『メールを見てみる』と。
しばらくして返信がきた。『寝ろ』と。
そんな訳で、ちらちらと隣を窺いつつ作業をする夏樹はすこぶる効率が悪かった。
問い合わせ内容に応じて決められたフォーマットを元に回答を入力するのだが、気が付くと同じ内容が重複していたり、的外れな回答になっていたりして、その都度やり直している。
夏樹がやっと2件目を終える頃には、北野は5件目を返信している、といった有様だった。
──翌日。
珍しくあまり眠れない夜を過ごした夏樹は、遅刻ぎりぎりに出社した。慌ただしく席に着くと、努めてさり気なく隣に声をかける。
「おはよう……ございます」
「おはよう」
年上の人に対しても敬語とタメ口が混ざり気味な夏樹だが、北野に対しては極力気を付けようと思う。一応この部署では夏樹が先輩の立場だし、自分としては親しみを込めた結果の言葉遣いなのだが、相手にどう伝わっているのかは自信がない。
北野はじろりと目線を寄越し、すぐにパソコンに向かった。カタカタと何かを打ち込む様子に、どうしても自分の低評価を書かれているように思えてならない。
(やっぱ時間ギリは心証悪いよな……って、気にしたらだめだ。平常心、平常心……)
夏樹は深呼吸をして、パソコンの電源を入れた。
今日は、夏樹や北野を含む阪木チームはメール担当の日だ。コールセンターではメールでの問い合わせにも対応していて、チーム単位で担当が回ってくる。毎日ずっと電話応対ばかりだとストレスが溜まるので、いい気分転換にもなるのだった。
昨夜、改めて桑原と電話で話したが、『杉本』は、やはり自分のことのようだった。
本社の経理課に1人いることはいるが、40代の女性らしい。本社での北野の立場は分からないが、ひと回りも年上の女性に対して『君』付けは少々違和感があるし、今は支社にいる北野が彼女についてわざわざメールで報告する内容があるとも考えにくく、限りなく夏樹の可能性が高いとのことだった。
電話を切ってからも夏樹は悶々と考え、夜中の3時に桑原にメッセージを送った。『メールを見てみる』と。
しばらくして返信がきた。『寝ろ』と。
そんな訳で、ちらちらと隣を窺いつつ作業をする夏樹はすこぶる効率が悪かった。
問い合わせ内容に応じて決められたフォーマットを元に回答を入力するのだが、気が付くと同じ内容が重複していたり、的外れな回答になっていたりして、その都度やり直している。
夏樹がやっと2件目を終える頃には、北野は5件目を返信している、といった有様だった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。
ブライダル・ラプソディー
葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。
しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが──
エブリスタにも投稿しています。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる