杉本君について

葉月凛

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 桑原は飲み終わったコーヒーをソーサーに戻して脇に寄せると、テーブルに肘をついた。

「お前のこと、待ってたんだよ。まだ噂の段階だけどな、確実な筋からの情報があって」
「何? もしかしてまだ行ってんの? 喫煙ルーム。タバコ吸わないくせに、体に悪いよー」

 桑原は、様々な情報を喫煙ルームで仕入れてくる。人脈を広げたいから、と本人は非喫煙者なのに入社1年目から喫煙ルームにたびたび出向く彼は、なかなかの上昇志向の持ち主だ。副流煙など気にしない。

 対して夏樹は、安定した職場と収入があればいいので、そこまでの出世欲は持ち合わせていない。決して怠け者という訳ではないが、無理して出世レースに食い込むよりは毎日平和に過ごしていたいタイプだ。何なら逆玉に乗りたいと言う夏樹に、桑原は『お前ならありそう』といつも笑っていた。

「タバコは喉締めて口ん中に煙溜めて吐いてりゃいいんだよ。お陰で結構人脈広がったんだぜ、顔見知りも増えたしな」

 ラーメンを速攻で食べ終わり、レンゲで炒飯を掬う夏樹に、ちらりと周りを窺った桑原が体を寄せた。指でチョイチョイと呼び寄せられる。

「ここだけの話──うちの会社、買収されるぞ」
「え」

 声を潜める桑原を、夏樹はきょとんと見返した。

「そうなの? 買収? どこに?」

 炒飯をもぐもぐと咀嚼しながら、聞き返す。

「驚くなよ……北條ほうじょうホールディングスだ」
「え、あの北條グループ? うちの会社って、北條グループに入んの?」
「そうらしい。びっくりだよな」
「ふーん」

 夏樹は、もぐもぐと炒飯を頬張る。
 桑原は呆れたように椅子の背もたれに体を戻した。

「お前、もっと反応ないのかよ」
「だって、上が変わるだけだろ? 俺ら、あんま関係ないじゃん」
「何言ってんだよ、そんな訳ないだろ」

 桑原は、更に呆れた声を出した。

「あの北條だぜ? お前も噂くらい知ってるだろ」
「噂? 噂って……ああ、暴力団組織と繋がってる、とかいうやつ?」

 炒飯を頬張りながら、夏樹は少し首を傾げた。

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