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戦闘
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「なんだこの風は。ダルマ、何が見える?」
双眼鏡を覗いたダルマは、言葉を失った。
「…あれは…一体…そんな筈は…。」
「何が見えるんだ!」
しびれを切らしカルダン王が叫ぶ。
「人が…飛んでいます…。」
「はっ、遂にお前もとち狂ったか。」
ダルマから双眼鏡を奪い取り、目にあてたカルダン王は、前方の森を見た。
森の上空には、明らかに翼が生えた人間が飛び回っていた。
その周りには風が炎を蹴散らしながら渦を巻き、焼けた木々を巻き上げている。
森に隠れていた兵が一斉に姿を現し、矢を放った。
既に高原の中ほどまで進軍していた先鋒隊に矢が突き刺さり次々と倒れる。
あまりの自体に兵も呆然とし、呆気なく斃されてゆく。
「まさか…あれが…。」
カルダン王は空を飛ぶ人間に釘付けになった。
あれが、愚鈍なる先代が残した汚点…神の翼。
「っくそ!陣形再展開!左右に広がって敵に背後及び横をとらせるな!先鋒隊は直ちに後退!とにかく矢が届く範囲から離れろ!」
剣を抜き、カルダン王は遥か右前方、ブロウ王率いる本陣を見やった。
「全ては作戦通りか?」
遠くに見えるブロウ王は、剣を真上に突き上げ、振り下ろした。
と同時に全兵が弾かれたように駆け出した。
「やはり待ってはくれないか。」
ふっと一瞬だけ口元を歪め、カルダン王は叫んだ。
「この戦に勝たなければ我々に明日はない!その命、我に捧げよ!」
1時間程前、ルーフ国本陣は、高原の西側に控えていた。
馬から降りたフレッタは、遠く彼方を見やる父親ブロウ王に話しかけた。
「お父様。疑う訳ではないのですが…その、本当にこの作戦で勝つおつもりですか?」
「どういう意味だ?」
「その、カルダン王は罠に気付かないでいてくれるでしょうか。」
ブロウ王は呟く。
「まあ、あの王なら気付くだろうな。少なくとも高原への道中何も仕掛けないところでこの作戦はばれる。」
「…え?」
フレッタは戸惑いの色を顔に浮かべた。
「そもそもこの作戦は、相手に勘づかれることを想定したものだ。まあ、これもほぼ博打だがな。」
「それは、どういう意味でしょう?」
「今にわかるさ。私の賭けがどうなるかは。」
炎を蹴散らす風の渦と、ナハルザーム軍に降り注ぐ矢の雨をみて、ブロウ王は言った。
「カルダン王はかなりの頭脳派だ。だが、戦の経験自体は浅い。敵の作戦を欺けた満足感で、肝心の戦の鉄則を欠く。ここに賭けた。更にディークが、炎をも消し去る翼の力を持っている。ここにも賭けた。思惑通りまんまと掛かって動揺している様だな。元から作戦が見抜かれることは想定済みだ。やはり若者は気がはやる。そのせいで肝心のことを忘れている。」
「『常に策は二重三重にあると思え。』」
「しかし、会議ではそのようなことは…。」
「いつどこに工作員がいてもおかしくはない。一か八かのぐらついた戦略で、相手が切羽詰まった状況であると思わせなくてはな。そうすることでこちらがぐっと有利になりやすくなる。お前にもこれは伝えていなかったが、悪く思わないでくれ。」
馬に乗ったブロウ王は、きらりと光る剣を空めがけて高々と掲げ、呟いた。
「ここはチェスのボードの上じゃない。戦場だ。」
双眼鏡を覗いたダルマは、言葉を失った。
「…あれは…一体…そんな筈は…。」
「何が見えるんだ!」
しびれを切らしカルダン王が叫ぶ。
「人が…飛んでいます…。」
「はっ、遂にお前もとち狂ったか。」
ダルマから双眼鏡を奪い取り、目にあてたカルダン王は、前方の森を見た。
森の上空には、明らかに翼が生えた人間が飛び回っていた。
その周りには風が炎を蹴散らしながら渦を巻き、焼けた木々を巻き上げている。
森に隠れていた兵が一斉に姿を現し、矢を放った。
既に高原の中ほどまで進軍していた先鋒隊に矢が突き刺さり次々と倒れる。
あまりの自体に兵も呆然とし、呆気なく斃されてゆく。
「まさか…あれが…。」
カルダン王は空を飛ぶ人間に釘付けになった。
あれが、愚鈍なる先代が残した汚点…神の翼。
「っくそ!陣形再展開!左右に広がって敵に背後及び横をとらせるな!先鋒隊は直ちに後退!とにかく矢が届く範囲から離れろ!」
剣を抜き、カルダン王は遥か右前方、ブロウ王率いる本陣を見やった。
「全ては作戦通りか?」
遠くに見えるブロウ王は、剣を真上に突き上げ、振り下ろした。
と同時に全兵が弾かれたように駆け出した。
「やはり待ってはくれないか。」
ふっと一瞬だけ口元を歪め、カルダン王は叫んだ。
「この戦に勝たなければ我々に明日はない!その命、我に捧げよ!」
1時間程前、ルーフ国本陣は、高原の西側に控えていた。
馬から降りたフレッタは、遠く彼方を見やる父親ブロウ王に話しかけた。
「お父様。疑う訳ではないのですが…その、本当にこの作戦で勝つおつもりですか?」
「どういう意味だ?」
「その、カルダン王は罠に気付かないでいてくれるでしょうか。」
ブロウ王は呟く。
「まあ、あの王なら気付くだろうな。少なくとも高原への道中何も仕掛けないところでこの作戦はばれる。」
「…え?」
フレッタは戸惑いの色を顔に浮かべた。
「そもそもこの作戦は、相手に勘づかれることを想定したものだ。まあ、これもほぼ博打だがな。」
「それは、どういう意味でしょう?」
「今にわかるさ。私の賭けがどうなるかは。」
炎を蹴散らす風の渦と、ナハルザーム軍に降り注ぐ矢の雨をみて、ブロウ王は言った。
「カルダン王はかなりの頭脳派だ。だが、戦の経験自体は浅い。敵の作戦を欺けた満足感で、肝心の戦の鉄則を欠く。ここに賭けた。更にディークが、炎をも消し去る翼の力を持っている。ここにも賭けた。思惑通りまんまと掛かって動揺している様だな。元から作戦が見抜かれることは想定済みだ。やはり若者は気がはやる。そのせいで肝心のことを忘れている。」
「『常に策は二重三重にあると思え。』」
「しかし、会議ではそのようなことは…。」
「いつどこに工作員がいてもおかしくはない。一か八かのぐらついた戦略で、相手が切羽詰まった状況であると思わせなくてはな。そうすることでこちらがぐっと有利になりやすくなる。お前にもこれは伝えていなかったが、悪く思わないでくれ。」
馬に乗ったブロウ王は、きらりと光る剣を空めがけて高々と掲げ、呟いた。
「ここはチェスのボードの上じゃない。戦場だ。」
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