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番外編5
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「その、少し恥ずかしそうで、でもそれを隠そうとして憮然とした表情を見て、私…何と言うか……」
セラフィナはぎゅっと眼を瞑る。
「『かっわいいなあ!もう!』って思ったの!」
勢い良く言ったセラフィナは、自身も恥ずかしいのにそれを隠そうとして眉根に力を入れていた。
その表情を見たアイリスは人差し指を立てる。
「惚れたのね?」
セラフィナは頬を赤くしてコクンと小さく頷いた。
-----
アイリスがセラフィナとの会話をかい摘んで説明すると、ウォルターは安心したように息を吐く。
「そう…セラ、ちゃんとアンドリューに対して好意があるんだね。それにしても大の男に対して『かわいい』って、思うもの?」
「はい。容姿は関係なくて、子供や動物に感じるかわいさとも違うんですよね」
「アイリスも、僕にそう思う事ある?」
ウォルターが興味深そうに言うと、アイリスはウォルターをチラッと見た。
「ん?」
「そう思われるの、嫌じゃないですか?」
「全然。だって好意があるからかわいく見えるんだろう?むしろ嬉しいよ?」
笑って言うウォルター。
アイリスはすうっと息を吸った。
「あります!と言うか、いつもそう思ってます。ウォルって呼んでってねだられた時も、久しぶりに会った時の嬉しそうな表情も、別れ際に寂しいって言ってくださった時も、学園の卒業式にこっそり来てくださった時も、大学の入試に受かった時に一緒に大喜びしてくださった時も。それに、馬車の事故の後や、連山の誘拐事件の後に抱きしめられた時にも、まだウォルの気持ちは知らなかったけど私はずっと格好良いなあと思うと同時にかわいいなあと思ってました!東国に住まわれてからも…」
「ままま待って、アイリス」
怒涛のように一気に話すアイリスを、ウォルターが慌てて止める。
「まだまだありますよ?」
アイリスは悪戯っぽく笑うと首を傾げた。
「それじゃあ、本当にいつも?」
少し照れて手で口元を覆うウォルター。
「はい」
勢い良く頷くアイリスを、ウォルターは愛おしそうに見つめる。
「…僕も、いつもアイリスの事がかわいくて堪らないよ?」
「それは…ちょっと意味が違うような…」
頬を染めるアイリス。
「そうかな?」
少し赤くなった二人が見つめ合った時、馬車が止まった。
「着いたね」
「はい…」
途端に緊張の面持ちになるアイリス。
「今日もしもアイリスが義母上を許す気になれなくても、近々また会う機会はあるから大丈夫だよ」
「え?」
近々?
今回はセラの結婚式のための帰国だけど、この後また帰国する予定が何かあったかしら?
ウォルターは首を傾げるアイリスの肩を抱いて、耳元に口を寄せる。
「結婚のご挨拶に来るから」
「け」
「そう。セラの結婚式の後、正式に求婚するから、心の準備をしておいて」
目を見開いてウォルターを見るアイリスの頬に軽く口付けた。
「アイリス、ほらヴィクトリアとジェイドが外で待ってくれているよ?」
開けられた馬車の扉の外を指差すウォルター。
アイリスがそちらに視線を向けると、屋敷の前に並んで立っているヴィクトリアとジェイドが目に入る。
「お姉様!ジェイド!」
急いで馬車を降りるアイリスをウォルターは見守るように微笑んだ。
「アイリス、久しぶり!」
「元気そうだな」
「お姉様とジェイドも元気そうね!」
三人でわあわあと盛り上がる様子をウォルターが降りた馬車の側で微笑ましく見つめていると、ウォルターの足に何かが触れる。
「ん?」
ウォルターが自分の足を見ると、小さな男の子がウォルターのトラウザーズを掴んでアイリスたちを見ていた。
四、五歳くらいの白金の髪の男の子。
「キミはもしや、アイリスの弟くんかな?」
男の子はウォルターを見上げて不安そうな表情で頷く。
「…うん」
ウォルターはしゃがんで男の子と視線を合わせた。
「どうしたの?アイリスとは初めて会うから緊張しているのかな?」
男の子は頷くと、小さな声で言う。
「アイリスおねえちゃんはぼくのこときらい?」
「どうして?」
「アイリスおねえちゃんはおかあさまがきらいだから…」
「アイリスはお義母様のことを嫌いではないよ?キミの事も嫌いじゃないと思うけどなあ」
ウォルターが不安そうな男の子に笑って言うと、男の子は
「ほんと?」
と首を傾げた。
「本当だよ。アイリスに聞いてみるといい」
男の子の背中に手を置く。
「うん」
意を決したように頷く、その背中を軽く押した。
男の子は息をすうーっと大きく吸う。
「アイリスおねえちゃ~ん!」
「!」
その声で男の子に気付いたアイリスは満面の笑みで男の子に駆け寄ると、初めて会った弟を強く抱きしめた。
─ 完 ─
「その、少し恥ずかしそうで、でもそれを隠そうとして憮然とした表情を見て、私…何と言うか……」
セラフィナはぎゅっと眼を瞑る。
「『かっわいいなあ!もう!』って思ったの!」
勢い良く言ったセラフィナは、自身も恥ずかしいのにそれを隠そうとして眉根に力を入れていた。
その表情を見たアイリスは人差し指を立てる。
「惚れたのね?」
セラフィナは頬を赤くしてコクンと小さく頷いた。
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アイリスがセラフィナとの会話をかい摘んで説明すると、ウォルターは安心したように息を吐く。
「そう…セラ、ちゃんとアンドリューに対して好意があるんだね。それにしても大の男に対して『かわいい』って、思うもの?」
「はい。容姿は関係なくて、子供や動物に感じるかわいさとも違うんですよね」
「アイリスも、僕にそう思う事ある?」
ウォルターが興味深そうに言うと、アイリスはウォルターをチラッと見た。
「ん?」
「そう思われるの、嫌じゃないですか?」
「全然。だって好意があるからかわいく見えるんだろう?むしろ嬉しいよ?」
笑って言うウォルター。
アイリスはすうっと息を吸った。
「あります!と言うか、いつもそう思ってます。ウォルって呼んでってねだられた時も、久しぶりに会った時の嬉しそうな表情も、別れ際に寂しいって言ってくださった時も、学園の卒業式にこっそり来てくださった時も、大学の入試に受かった時に一緒に大喜びしてくださった時も。それに、馬車の事故の後や、連山の誘拐事件の後に抱きしめられた時にも、まだウォルの気持ちは知らなかったけど私はずっと格好良いなあと思うと同時にかわいいなあと思ってました!東国に住まわれてからも…」
「ままま待って、アイリス」
怒涛のように一気に話すアイリスを、ウォルターが慌てて止める。
「まだまだありますよ?」
アイリスは悪戯っぽく笑うと首を傾げた。
「それじゃあ、本当にいつも?」
少し照れて手で口元を覆うウォルター。
「はい」
勢い良く頷くアイリスを、ウォルターは愛おしそうに見つめる。
「…僕も、いつもアイリスの事がかわいくて堪らないよ?」
「それは…ちょっと意味が違うような…」
頬を染めるアイリス。
「そうかな?」
少し赤くなった二人が見つめ合った時、馬車が止まった。
「着いたね」
「はい…」
途端に緊張の面持ちになるアイリス。
「今日もしもアイリスが義母上を許す気になれなくても、近々また会う機会はあるから大丈夫だよ」
「え?」
近々?
今回はセラの結婚式のための帰国だけど、この後また帰国する予定が何かあったかしら?
ウォルターは首を傾げるアイリスの肩を抱いて、耳元に口を寄せる。
「結婚のご挨拶に来るから」
「け」
「そう。セラの結婚式の後、正式に求婚するから、心の準備をしておいて」
目を見開いてウォルターを見るアイリスの頬に軽く口付けた。
「アイリス、ほらヴィクトリアとジェイドが外で待ってくれているよ?」
開けられた馬車の扉の外を指差すウォルター。
アイリスがそちらに視線を向けると、屋敷の前に並んで立っているヴィクトリアとジェイドが目に入る。
「お姉様!ジェイド!」
急いで馬車を降りるアイリスをウォルターは見守るように微笑んだ。
「アイリス、久しぶり!」
「元気そうだな」
「お姉様とジェイドも元気そうね!」
三人でわあわあと盛り上がる様子をウォルターが降りた馬車の側で微笑ましく見つめていると、ウォルターの足に何かが触れる。
「ん?」
ウォルターが自分の足を見ると、小さな男の子がウォルターのトラウザーズを掴んでアイリスたちを見ていた。
四、五歳くらいの白金の髪の男の子。
「キミはもしや、アイリスの弟くんかな?」
男の子はウォルターを見上げて不安そうな表情で頷く。
「…うん」
ウォルターはしゃがんで男の子と視線を合わせた。
「どうしたの?アイリスとは初めて会うから緊張しているのかな?」
男の子は頷くと、小さな声で言う。
「アイリスおねえちゃんはぼくのこときらい?」
「どうして?」
「アイリスおねえちゃんはおかあさまがきらいだから…」
「アイリスはお義母様のことを嫌いではないよ?キミの事も嫌いじゃないと思うけどなあ」
ウォルターが不安そうな男の子に笑って言うと、男の子は
「ほんと?」
と首を傾げた。
「本当だよ。アイリスに聞いてみるといい」
男の子の背中に手を置く。
「うん」
意を決したように頷く、その背中を軽く押した。
男の子は息をすうーっと大きく吸う。
「アイリスおねえちゃ~ん!」
「!」
その声で男の子に気付いたアイリスは満面の笑みで男の子に駆け寄ると、初めて会った弟を強く抱きしめた。
─ 完 ─
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楽しかったです。
でも継母を許してしまうのかー
そうですね、そこを含めてアイリスはちょっと「良い子」にしすぎた感もありますね…
感想ありがとうございます
すごく嬉しいです!