ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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番外編3

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3

 ルイーザの屋敷から大学に通うアイリス。
 セラフィナが東国に来た際は、ウォルターが東国の王都に構えている屋敷に滞在するのだが、今日のセラフィナはルイーザの屋敷のアイリスの部屋にいる。
 アイリスと夜通し語るために泊まりに来ているのだ。
「で、セラ、アンドリュー様はどう?」
 ベッドにうつ伏せになって、両手で頬杖をついたアイリスが言う。
「今まで見た事ないくらい美形で驚いたわ」
 ベッドの横に座って緩いサイドテールに髪を結びながらセラフィナが言った。
「確かに。私も最初に見た時は思わず眼を覆ったもの」
 日差しを遮るように額に手を当てる。
「あー何だか眩しい感じがするのよね。わかるわ」
 うんうんと頷くセラフィナ。

「じゃなくて、結婚相手としてどう?の『どう?』よ」
 アイリスがクスクスと笑う。
「うーん…まだよくわからないわ。アイリスは何故アンドリュー様を私に会わせようと思ったの?」
 そうセラフィナが聞くと、アイリスは苦笑いを浮かべた。

「あのね。ラウル殿下から頂いた嫡男じゃなくて婚約者のいない令息リストにもちろんアンドリュー様の名前はあったのよ。でも、セラも聞いたみたいに学園時代がちょっと異常な感じだったじゃない?」
「でもそれはアンドリュー様が悪い訳ではないわよね?」
「そうなんだけど…異性関係のいざこざのある男性ひとをわざわざセラに薦めないわ」
「それはそうね」
 じゃあ何で今回そのアンドリュー様を薦める事になったんだろう?

「調べるという程の事をしなくても、学園に入る前の事も耳に入って来たし」
「え?」
 学園に入る前の話は聞いてないけど…そういえば「幼い頃から色々あった」って言われてたわ。
「アンドリュー様のお家、ハーン伯爵家って、家族全員が美形なのよ。お兄様二人も学園生時代はアンドリュー様ほどじゃなくても似たような感じだったそうだし、お父様もお母様も独身時代には……」
「そうなの?」
「うん。ハーン家の三兄弟は全員幼い頃に誘拐された事があるとか。もちろん身代金目的じゃなく。あとはその…女性に限らず男性にも襲われた事があるとか…それは未遂だったそうだけど、まあとにかく色々噂があって、アンドリュー様に確認したら『全部事実』ですって」
 …何と言うか「幼い頃から色々あった」で済まされる感じではないわね。それは。
「そんな感じだから、候補からは外してたの。でも大学で私が階段から落ちた時、アンドリュー様が助けてくれようとして一緒に落ちた事があって」
「ええ?」

 アイリスが階段を下りようとしていた時、後ろから来た学生が偶然アイリスにぶつかり、足を踏み外した。
 たまたま隣にいた男性が咄嗟にアイリスの腕を掴んだが、流石に片手で大人の女性を支え切る事は不可能で、二人とも階段から落ちた。そのたまたま隣にいた男性がアンドリューだったのだ。
「その時、女性とは出来るだけ関わらないようにしていた筈なのに、アンドリュー様は私を助けようとしてくれたの。幸い私もアンドリュー様も怪我はしなかったけど、怪我はないか気遣ってくれて、救護室にも連れて行ってくれて、良い人だなって」
「そうなのね」
「その事を報告したらウォルも興味を持ったみたいで、ちょうど坑道の跡地利用の件で法学系の有識者を探してたから『会ってみたい』って言われたの」
 それはお兄様としては、アイリスに男性が接近したから牽制する意味もあったのかも。
「実際会ったら気が合って、良く二人でとかデリックと三人でとかで食事したり、お茶したり、たまにはお酒を飲んだりしてるわ。ウォルと一緒の時間はデリックの次くらいで、私より長いのよ。それで、ウォルとしてはアンドリュー様に向こうの国での法的手続きなどを任せたいんだって」

「じゃあアンドリュー様は私と結婚してもしなくても向こうへ行くの?」
「うん。東国こっちだと例えば学園の同級生とかが依頼にかこつけて押し掛けて来たりしそうで嫌なんだって。とにかく環境を変えたいって言ってたわ」
「……」
 確かに媚薬を盛るような人なんだから、あの手この手、どんな手でも使って近付いて来そう。
 何なら国を超えてでも……

 ……うん。
 大きく頷くセラフィナ。
「セラ?」
 アイリスが黙って急に頷いたセラフィナを見上げる。
 セラフィナはアイリスの方へ振り向いて笑って言った。
「アイリス、私、アンドリュー様と結婚するわ」



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