ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 ルイーザの家で、食堂兼居間の掃除をしているアイリス。ケイシーは家の裏手で洗濯をしている。
 ルイーザは馬を貸したり預かったりする生業の受付の仕事のために家から離れた馬小屋へ行っていた。

「ん?」
 アイリスの耳にザワザワと騒めく音が聞こえて来て、箒を動かす手を止める。

「……」
「…たか…」
「……いな……」
 
 人の声?
 誰か来た?
 アイリスが箒を壁に立て掛けて、玄関の方へ行こうとすると───

 バンッ!
 と、勢いよく玄関扉が開いた。
「!」
 黒い布をマスクにして顔を隠した男が玄関から入って来る。
 何!?
 アイリスは咄嗟に逃げようと身を翻すが、男の方が早く、アイリスの腕を掴んだ。
「嫌!!」

 男はアイリスの首に後ろから腕を回す。
 そのまま、腕で首を締め付けた。
「…ぅ……」
 苦しい。
 片腕を掴まれたままなので、アイリスは首に巻きついた腕を外そうと男の前腕を片手で引っ張る。しかしビクともしなかった。
「ぐ……」
 息が詰まって呻る。
 男は無言で締め付け続ける。

「……」
 声にならない声を発して、アイリスの身体から力が抜けた。

-----

「いたか?」
「いや、家主の女はいないようだ」
「仕方ない。家主が戻る前にこの二人だけでも予定通り消えてもらおう」

「本当にこの女で間違いないんだよな?」
「ああ。聞いてる特徴に全て当てはまる」

「せっかくの若い女なのにもったいねぇな」
「残念だが楽しんでる時間はないぞ」
「ちぇ」

 パチ、パチパチ。

 ……聞いた事のある音がする。
 これは…暖炉の薪が爆ぜる音?

 …暖炉?
 今、夏なのに?

 ハッ!

 アイリスが意識を取り戻したのは、ルイーザの住まいの寝室のベッドの上だった。
「……」
 壁向きに横臥している身体を動かそうとして、手足が縛られている事に気付く。
 猿ぐつわを噛まされ、身体の後ろで両手首を、両足首と膝の辺りも縛られていた。

 一体、何が起きてるの?

 パチパチ。

 状況を把握できていないアイリスの耳に、薪が爆ぜるような音が届く。
 壁側に向いて横たわっていたアイリスが後方に視線を動かすと、寝室の窓の向こうが橙色に光ってゆらゆらと揺らめいていた。

「!」
 炎だ!

 火事!?
 ううん、家に火を放たれたんだわ!
「うう~…」
 起き上がろうともがくアイリスの背中に、何かが当たる。

 仰向けになって横を見ると、同じように縛られて猿ぐつわをされ、目を閉じているケイシーがアイリスの隣に横たわっていた。

 ケイシー!!
 さっき男の声で、消えてもらうって言ってた二人って、私とケイシーの事!?
「…ううっ!ゔぅー」
 グイグイと身体を押し付け、ケイシーの目を覚まさせようとするが、ケイシーの目は開かない。
 ケイシー、起きて!
 火事なの。逃げなきゃ…
 そうだわ。このまま押して、ベッドから落ちたら衝撃で目が覚めるかも。
「うぐぅ…」
 グイグイとケイシーを身体で押して行くアイリス。

 ドサリ。
 ベッドから落ちたケイシー。
 アイリスはベッドの上を転がり、うつ伏せになると、上からケイシーを覗き込んだ。
 しかし、ケイシーは目を瞑ったままで、目を覚ます気配はない。

 パリンッ。
 と、音を立てて窓ガラスが割れて、炎が窓枠を舐めるように室内に入って来る。
 途端に熱気が部屋に充満した。
「ゔゔ!!」
 熱い。
 このままでは焼け死んでしまう。
 でも動けないし、逃げられない。
 逃げられない……

 ああ……私、ここで死ぬんだわ…

 このまま死ぬなら、ケイシーは意識がないままの方が苦しまなくて済むかも。
 アイリスは動きを止めてカーテン沿いに上へと伸びて行く炎を眺めた。

「本当にこの女で間違いないんだよな?」
 そう言ってたし、狙われたのはきっと私だわ。
 誰に何でだかはわからないけど…ケイシーを巻き込んでしまってごめんなさい。
 ルイーザ様も。
 思い出の家を焼かれてしまって。私のせいで、本当にごめんなさい…

 目を閉じると涙が流れる。
 その涙さえも空気に熱せられてとても熱く感じた。

 お姉様、ジェイド、どうか幸せになってください。

 ウォルター殿下…最期にもう一度会いたかった…



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