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背中にクッションを入れて支えながら、ベッドの上で少し上体を起こした姿勢になったマティルダは、侍女ローレンからコップに入った水を受け取った。
「…旦那様何を仰りたかったのかしら?」
そう呟きながら水を飲む。
「奥様?」
「先程ここへ来られた時旦那様から『ヴィクトリアと話したか?』と聞かれたの。意味あり気で…何か私に言いたい事や聞きたい事がおありになるのかと思って」
もしかしてあの事故の事?
ヴィクトリアが、私がアイリスを葬ろうとした事を旦那様に話したのだろうか?
「だとしても、もしかして男子を宿しているかも知れない私を糾弾する事はできないわよね。今は」
お腹の子が男なら文句なしのガードナー家の後継ぎだわ。いくら旦那様が幼い頃からジェイドをかわいがっているとは言え、我が子に勝る事はないだろう。
「奥様?」
独り言のように呟くマティルダにローレンは首を傾げた。
「何でもないわ」
ローレンの事は侍女の中で一番信頼している。
でもローレンはジェイドの母親で、ニコラスの妻。その点に於いてはやはり私も何もかもを曝け出す事はできない。だからローレンは私が王妃派の貴族と繋がりを持ち、アイリスを葬ろうとした事も、それにヴィクトリアも巻き込み、もし命を落としたとしてもそれは仕方のない事だと考えていた事も知らない。
「それにしても、あの時あんなに激昂したのは失敗だったわ」
「?」
マティルダの脈略のない独り言にますます首を傾げるローレン。
あの時。
事故の後、目覚めたアイリスが意識のないヴィクトリアの寝室を訪れた時。
アイリスを葬るのに失敗した。そのアイリスが一番軽傷で助かった事も、ヴィクトリアの意識がいつ戻るかもわからなかった状況も、ジェイドがアイリスを庇って重傷を負った事さえ腹立たしかった。
更にウォルター殿下がアイリスにヴィクトリアの代わりをさせると言いだし、何もかもがアイリスに有利になって行く気がして、私の精神はかなり荒んでいたように思う。
そして、アイリスの顔を見た途端にそれは爆発したわ。
車椅子を蹴倒した。
アイリスの怯えた表情を見ると煽られたように怒りが込み上げて来て、何度も何度も蹴り付けて…
妊娠に気付いていたのに、抑えられなかった。
あの時から日も経つし、あの行動と今回流産しかけた事とに関係あるかどうかはわからない。
それでもあの娘のせいだと言う気持ちが拭えない。
更に今、アイリスが、ヴィクトリアの身代わりとは言え王子の側にいる。ウォルター殿下との距離を縮めるには充分な時間だわ。
もしもアイリスがヴィクトリアを押し退けてウォルター殿下と……
「…許さないわ」
やはり泥棒猫の娘は同じ泥棒猫。そんな事になるのは私は絶対に許さない。
愛しいお腹の子のためとはいえ、つくづく今安静にしておかなければならない自分の身が恨めしいわ。
自由に動けるのならば、直ぐにでもあの泥棒猫の娘を始末しに行くものを。
-----
「お父様、私、修道院へ行きます」
ヴィクトリアが真っ直ぐ父フランクを見ながら言った。
「…何故?」
フランクは動揺を隠しながら穏やかに問う。
「顔の傷の事なら心配しなくても、良い医者を探して…」
ヴィクトリアは頭を振った。
「いえ、違うんです。私…自分が嫌になったのです。自分の事しか考えていない、浅はかな自分が」
バタンッ!
執務室の扉が勢いよく開いて、ジェイドが入って来る。
「ジェイド!?」
「どうした?」
ソファで向かい合うヴィクトリアとフランクがジェイドの方を見ると、ジェイドの父で執事のニコラスがヴィクトリアたちに近付こうとするジェイドを止めた。
「ジェイド、ノックもなしに…」
「ヴィクトリア様、修道院へ行くと言われましたが、本気ですか!?」
父の制止を無視してジェイドは言う。
「…ええ。そうよ」
ヴィクトリアが頷くと、ジェイドは眉を顰めて首を何度も横に振った。
「違う。俺は、ヴィクトリア様にそんな事をさせるために何度もあの日をやり直した訳じゃない!」
背中にクッションを入れて支えながら、ベッドの上で少し上体を起こした姿勢になったマティルダは、侍女ローレンからコップに入った水を受け取った。
「…旦那様何を仰りたかったのかしら?」
そう呟きながら水を飲む。
「奥様?」
「先程ここへ来られた時旦那様から『ヴィクトリアと話したか?』と聞かれたの。意味あり気で…何か私に言いたい事や聞きたい事がおありになるのかと思って」
もしかしてあの事故の事?
ヴィクトリアが、私がアイリスを葬ろうとした事を旦那様に話したのだろうか?
「だとしても、もしかして男子を宿しているかも知れない私を糾弾する事はできないわよね。今は」
お腹の子が男なら文句なしのガードナー家の後継ぎだわ。いくら旦那様が幼い頃からジェイドをかわいがっているとは言え、我が子に勝る事はないだろう。
「奥様?」
独り言のように呟くマティルダにローレンは首を傾げた。
「何でもないわ」
ローレンの事は侍女の中で一番信頼している。
でもローレンはジェイドの母親で、ニコラスの妻。その点に於いてはやはり私も何もかもを曝け出す事はできない。だからローレンは私が王妃派の貴族と繋がりを持ち、アイリスを葬ろうとした事も、それにヴィクトリアも巻き込み、もし命を落としたとしてもそれは仕方のない事だと考えていた事も知らない。
「それにしても、あの時あんなに激昂したのは失敗だったわ」
「?」
マティルダの脈略のない独り言にますます首を傾げるローレン。
あの時。
事故の後、目覚めたアイリスが意識のないヴィクトリアの寝室を訪れた時。
アイリスを葬るのに失敗した。そのアイリスが一番軽傷で助かった事も、ヴィクトリアの意識がいつ戻るかもわからなかった状況も、ジェイドがアイリスを庇って重傷を負った事さえ腹立たしかった。
更にウォルター殿下がアイリスにヴィクトリアの代わりをさせると言いだし、何もかもがアイリスに有利になって行く気がして、私の精神はかなり荒んでいたように思う。
そして、アイリスの顔を見た途端にそれは爆発したわ。
車椅子を蹴倒した。
アイリスの怯えた表情を見ると煽られたように怒りが込み上げて来て、何度も何度も蹴り付けて…
妊娠に気付いていたのに、抑えられなかった。
あの時から日も経つし、あの行動と今回流産しかけた事とに関係あるかどうかはわからない。
それでもあの娘のせいだと言う気持ちが拭えない。
更に今、アイリスが、ヴィクトリアの身代わりとは言え王子の側にいる。ウォルター殿下との距離を縮めるには充分な時間だわ。
もしもアイリスがヴィクトリアを押し退けてウォルター殿下と……
「…許さないわ」
やはり泥棒猫の娘は同じ泥棒猫。そんな事になるのは私は絶対に許さない。
愛しいお腹の子のためとはいえ、つくづく今安静にしておかなければならない自分の身が恨めしいわ。
自由に動けるのならば、直ぐにでもあの泥棒猫の娘を始末しに行くものを。
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「お父様、私、修道院へ行きます」
ヴィクトリアが真っ直ぐ父フランクを見ながら言った。
「…何故?」
フランクは動揺を隠しながら穏やかに問う。
「顔の傷の事なら心配しなくても、良い医者を探して…」
ヴィクトリアは頭を振った。
「いえ、違うんです。私…自分が嫌になったのです。自分の事しか考えていない、浅はかな自分が」
バタンッ!
執務室の扉が勢いよく開いて、ジェイドが入って来る。
「ジェイド!?」
「どうした?」
ソファで向かい合うヴィクトリアとフランクがジェイドの方を見ると、ジェイドの父で執事のニコラスがヴィクトリアたちに近付こうとするジェイドを止めた。
「ジェイド、ノックもなしに…」
「ヴィクトリア様、修道院へ行くと言われましたが、本気ですか!?」
父の制止を無視してジェイドは言う。
「…ええ。そうよ」
ヴィクトリアが頷くと、ジェイドは眉を顰めて首を何度も横に振った。
「違う。俺は、ヴィクトリア様にそんな事をさせるために何度もあの日をやり直した訳じゃない!」
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