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そういえば、セラが「東国にもう一人王子がいれば私が嫁げるのに」って言った時、そんな話しもしてたわ。
厨房のカウンターの下に隠れてマリーと鉱夫たちの会話を聞いていたアイリス。
「セラフィナ殿下を?」
「……」
隣で同じように隠れて座っているケイシーが小声で呟く。アイリスは黙ってマリーと鉱夫たちの会話に耳を傾けた。
「妹姫を正妃にって、ラウル様は婚約してるじゃないの」
マリーの声が聞こえる。
「その婚約者…何て言ったっけ?まあとにかく婚約者は公爵家の令嬢だろ?」
鉱夫の声。
「カルロッテ様よ」
マリーの声。
「そりゃあ最悪婚約解消かもな」
別の鉱夫の声。
「そう。つまり王女を迎えるなら正妃にするしかない。かと言って公爵令嬢は側妃として置くには身分が高すぎる。公爵も、他にいくらでも良い家との縁談が望める娘がわざわざ側妃となるのを許すか?それにそのカルロッテ様とやらも、自分が側妃になるのは嫌だろうからな」
「俺が公爵令嬢なら婚約解消だな」
また別の鉱夫の声。
「だがラウル殿下は婚約者にメロメロ首ったけなんだろ?」
またまた別の鉱夫の揶揄うような声。
「らしいな。ラウル殿下としては早くカルロッテ様と結婚したいのに、今は止められてる状態だ」
「ははあ。こっちの王女を正妃に迎える可能性があるから、ラウル殿下は王の一人息子で王太子、なるべく早く世継ぎをもうけたいだろうに、まだ結婚できないって訳か」
「それに加えて、段々と妹姫が誰かと婚約してしまう前に早く正妃にする段取りを調えろと言う意見も多くなって来たし。王太子なんだし、個人感情より国同士の盟約遵守の方が大切だろうと」
「だからこそラウル様としてはそのウォルターって王子に東国へ来てもらいたいのか」
「そういう事だな」
さまざまな声が聞こえてきて、アイリスは立てた膝の上に置いた手を握り合わせた。
なるほど。
ラウル殿下がウォルター殿下を東国へ行かせたがってるのはこのせいなのか。
それにしても国境を越えたこの国側の銀山で働く人たちが結構詳しくラウル殿下たちの事を知ってるのね。
でもセラの方はラウル殿下の正妃になるなんて考えてもいないみたいだったから、こっちの国と東国ではその辺の認識も少し違うのかな。
「今回ラウル殿下がこっちの国にわざわざ婚約者を連れて来たのは、婚約者を国外に紹介する事で婚約解消し辛くするためと、自分は絶対この女性と結婚するんだって意思表明のためかもな」
鉱夫の一人が言う。
「そうかもなあ。しかしまあ、下位貴族でも恋愛結婚なんてそうあるもんじゃないのに、王族がねぇ」
「俺たちみたいに泥まみれで働かなくても何不自由ない生活で、一生食うに困る事なんぞないくせに、結婚相手まで望み通りにしようってか。文字通りいいご身分だわ」
嘲笑うように言う鉱夫。
違いない。と薄い笑いが起きた。
その時。
ドドーンッ!
と、地鳴りのような音と振動が起こる。
「!?」
何!?
思わず身を竦めるアイリス。
「何だ!?」
「発破か?」
「落盤?」
「いや、それにしては音が…」
「とにかく行こう!」
鉱夫たちも騒めき、休憩所を飛び出す者もいた。
「大変だ!」
数人の鉱夫が休憩所に飛び込むように入って来る。
元いた鉱夫たちがそちらに注目する。
「何があった!?」
「ば…爆発だ!!」
「爆発した!」
休憩所に飛び込んで来た鉱夫が口々に叫ぶ。
爆発?
アイリスが立ちあがろうとすると、ケイシーが袖を引っ張って止めた。
「爆発ってどこがだ!?」
「何が爆発したんだ!?」
飛び込んで来た鉱夫を取り囲む鉱夫たち。
「東側の坑道で…」
「東側って、ラウル様たちが視察している所だろう!?」
「え!?」
アイリスは小さく声を上げる。
ラウル殿下たちが視察してる坑道…って事は、そこにはウォルター殿下もいるはずで…
「アイ…ヴィクトリア様…」
ケイシーが袖を握ったまま心配そうにアイリスを見た。
「……」
ガツッ!
鈍い音がして、目の前のケイシーが見えなくなる。
「……え…?」
アイリスが俯くと、自分の膝の上にケイシーがうつ伏せで倒れていた。
「ケイシー!?」
ケイシーの肩に触れようとした時。
背後から伸びて来た手がアイリスの口を塞いだ。
何!?
誰!?
アイリスの口を覆う大きな手の平には薬品を染み込ませたらしい布があり、アイリスの視界がぐらりと歪む。
意識を手放す直前のアイリスの視界には、ケイシーが床に倒れている様子が映っていた。
そういえば、セラが「東国にもう一人王子がいれば私が嫁げるのに」って言った時、そんな話しもしてたわ。
厨房のカウンターの下に隠れてマリーと鉱夫たちの会話を聞いていたアイリス。
「セラフィナ殿下を?」
「……」
隣で同じように隠れて座っているケイシーが小声で呟く。アイリスは黙ってマリーと鉱夫たちの会話に耳を傾けた。
「妹姫を正妃にって、ラウル様は婚約してるじゃないの」
マリーの声が聞こえる。
「その婚約者…何て言ったっけ?まあとにかく婚約者は公爵家の令嬢だろ?」
鉱夫の声。
「カルロッテ様よ」
マリーの声。
「そりゃあ最悪婚約解消かもな」
別の鉱夫の声。
「そう。つまり王女を迎えるなら正妃にするしかない。かと言って公爵令嬢は側妃として置くには身分が高すぎる。公爵も、他にいくらでも良い家との縁談が望める娘がわざわざ側妃となるのを許すか?それにそのカルロッテ様とやらも、自分が側妃になるのは嫌だろうからな」
「俺が公爵令嬢なら婚約解消だな」
また別の鉱夫の声。
「だがラウル殿下は婚約者にメロメロ首ったけなんだろ?」
またまた別の鉱夫の揶揄うような声。
「らしいな。ラウル殿下としては早くカルロッテ様と結婚したいのに、今は止められてる状態だ」
「ははあ。こっちの王女を正妃に迎える可能性があるから、ラウル殿下は王の一人息子で王太子、なるべく早く世継ぎをもうけたいだろうに、まだ結婚できないって訳か」
「それに加えて、段々と妹姫が誰かと婚約してしまう前に早く正妃にする段取りを調えろと言う意見も多くなって来たし。王太子なんだし、個人感情より国同士の盟約遵守の方が大切だろうと」
「だからこそラウル様としてはそのウォルターって王子に東国へ来てもらいたいのか」
「そういう事だな」
さまざまな声が聞こえてきて、アイリスは立てた膝の上に置いた手を握り合わせた。
なるほど。
ラウル殿下がウォルター殿下を東国へ行かせたがってるのはこのせいなのか。
それにしても国境を越えたこの国側の銀山で働く人たちが結構詳しくラウル殿下たちの事を知ってるのね。
でもセラの方はラウル殿下の正妃になるなんて考えてもいないみたいだったから、こっちの国と東国ではその辺の認識も少し違うのかな。
「今回ラウル殿下がこっちの国にわざわざ婚約者を連れて来たのは、婚約者を国外に紹介する事で婚約解消し辛くするためと、自分は絶対この女性と結婚するんだって意思表明のためかもな」
鉱夫の一人が言う。
「そうかもなあ。しかしまあ、下位貴族でも恋愛結婚なんてそうあるもんじゃないのに、王族がねぇ」
「俺たちみたいに泥まみれで働かなくても何不自由ない生活で、一生食うに困る事なんぞないくせに、結婚相手まで望み通りにしようってか。文字通りいいご身分だわ」
嘲笑うように言う鉱夫。
違いない。と薄い笑いが起きた。
その時。
ドドーンッ!
と、地鳴りのような音と振動が起こる。
「!?」
何!?
思わず身を竦めるアイリス。
「何だ!?」
「発破か?」
「落盤?」
「いや、それにしては音が…」
「とにかく行こう!」
鉱夫たちも騒めき、休憩所を飛び出す者もいた。
「大変だ!」
数人の鉱夫が休憩所に飛び込むように入って来る。
元いた鉱夫たちがそちらに注目する。
「何があった!?」
「ば…爆発だ!!」
「爆発した!」
休憩所に飛び込んで来た鉱夫が口々に叫ぶ。
爆発?
アイリスが立ちあがろうとすると、ケイシーが袖を引っ張って止めた。
「爆発ってどこがだ!?」
「何が爆発したんだ!?」
飛び込んで来た鉱夫を取り囲む鉱夫たち。
「東側の坑道で…」
「東側って、ラウル様たちが視察している所だろう!?」
「え!?」
アイリスは小さく声を上げる。
ラウル殿下たちが視察してる坑道…って事は、そこにはウォルター殿下もいるはずで…
「アイ…ヴィクトリア様…」
ケイシーが袖を握ったまま心配そうにアイリスを見た。
「……」
ガツッ!
鈍い音がして、目の前のケイシーが見えなくなる。
「……え…?」
アイリスが俯くと、自分の膝の上にケイシーがうつ伏せで倒れていた。
「ケイシー!?」
ケイシーの肩に触れようとした時。
背後から伸びて来た手がアイリスの口を塞いだ。
何!?
誰!?
アイリスの口を覆う大きな手の平には薬品を染み込ませたらしい布があり、アイリスの視界がぐらりと歪む。
意識を手放す直前のアイリスの視界には、ケイシーが床に倒れている様子が映っていた。
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