ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 旦那様からの情報だけではなく、私個人としても王妃派の貴族の家へ使用人として人を送り込み、情報を集めた。
 そして、馬車の事故を装い、馬車を川へ転落させる計画を知る。
「この馬車にアイリスを乗せるには…」
 ヴィクトリアとアイリスが二人で出掛けるとなると、買物、観劇、散策、ピクニック…いえ、旦那様から気をつけさせるよう言われているのだから、そんな理由での外出を許す訳にはいかないわ。
 学園への行き帰りには今まで別の馬車を使わせていたから、急に一緒にと言うのも不自然だし。

 ヴィクトリアが乗っていると見せかけて、アイリスを乗せる?
 そうして首尾良くアイリスを排除できたら、ヴィクトリアが狙われている事を知ったウォルター殿下がヴィクトリアの警備を厳重にしてくださるかしら?
 いいえ、アイリスが死んでしまったら、ウォルター殿下はきっとヴィクトリアを護ってはくださらない。

 そして。
 その頃、ようやく。
 ようやく、私の身体に妊娠の兆候が現れた。

-----

「巻き込まれたのは…私…?」
 アイリスは手を握りしめたままヴィクトリアを見る。

「…そう…王妃…派の……」
 目を閉じて、抗うように目を開けるヴィクトリア。
「……」
 また目を閉じる。
 お姉様、まだ意識が戻ったばかりで、長い時間起きている事ができないんだわ。
「眠られても大丈夫ですよ。お姉様、続きはまた今度で」
 アイリスは握っていた手を開き、ヴィクトリアの手を握った。
「ん…アイ…リス…」
 眠りに逆らい、ヴィクトリアはアイリスの手を握り返した。
「お姉様?」
「……賭けた…の。私…」

 え?賭け?
「……」
 何かを言うように唇が動くが、声は聞こえない。
 ヴィクトリアはそのまま目を閉じた。

 賭けって、ドリアーヌ様やステファン殿下が言ってたのと同じ賭け?
 眠るヴィクトリアを見つめるアイリスの肩にジェイドが手を置く。
「アイリス、そろそろ…」
「うん」
 立ち上がり、寝室の扉に近付くと、アイリスは名残惜しそうに振り返り、ヴィクトリアの穏やかな寝顔に安堵した。

-----

 私の中に芽吹いた命が、学園を卒業して一人前になるまでに十八…十九年。
 ヴィクトリアを産んだ二十歳すぎの頃に比べ、もうすぐ四十歳になるこの身体は確実に体力が衰えている。
 とにかく無事に生まれるように、無事に育つように、細心の注意を払わなくては。
「旦那様には…まだ言えないわね」
 まだ初期も初期。何があるかわからないわ。
 きっと旦那様は喜んでくださる。だからこそぬか喜びにはさせたくない。

「お母様、来週の週末にウォルター殿下から王宮に来ないかとお誘いがあったのですが…」
 身辺に気を付けるよう言ってあったヴィクトリアがそう私にそう言ったのは、アイリスの誕生日の前の週だった。
「アイリスも一緒にと言われていて…セラフィナ殿下も交えてアイリスの誕生日のお祝いを、と」

「誕生祝い…ね」
 ふうん。セラフィナ殿下かウォルター殿下か、どちらが言い出したのかわからないけれど…

 普段ヴィクトリアがアイリスと仲良くする事に良い顔をしない私がここであっさりと許可するのもおかしいかしら?
 でもヴィクトリアとアイリスが一緒の馬車で出掛けるせっかくの機会だわ。

「お二方からの呼び出しなら仕方がないわ。ただし、アイリスには誕生祝いだとは内緒にしておきなさい」
「内緒にですか?」
 不思議そうなヴィクトリア。
「そうよ。『私は王子王女に誕生日を祝われる存在だ』などと自惚れてもらっては困るわ」
「アイリスはそんな子じゃ…」
「ヴィクトリア、貴女も、狙われている事を自覚なさい。いざという時逃げられる確率を上げるため、馬車では扉の近くに乗りなさいな」
「お母様、まさか…」
 ヴィクトリアが目を見開いて私を見る。
「まさか?私たちのこの会話をとでも言いたいのかしら?」

「お母様…」
 青褪めたヴィクトリア。
 思えばこの子もかわいそうな子よね。
「アイリスが居なくなれば貴女にとっても好都合でしょう?ヴィクトリア」
「…何を」
「アイリスが居なければ、この家はヴィクトリアが継ぐしかないもの…ね?」
「!」
 ヴィクトリアは驚愕の表情を浮かべる。

 私は優しい笑顔をヴィクトリアに向けた。
 ヴィクトリアの目に優しい笑顔に映ったかどうかはわからないけれど。





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