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馬車から降りたアイリスとジェイドがガードナー家の使用人出入口から屋敷の中へ入る。
そのままジェイドたち家族用の使用人部屋へと移動した。
「アイリス、これ被って」
ジェイドが白金で真っ直ぐな長髪の鬘をアイリスに差し出す。
「うん」
アイリスは眼帯を取ると、ワンピースのポケットに入れると後ろで結んでいる髪をくるくると纏めた。
「自分になるために鬘を被るって変な気分」
鬘を被り鏡に写る、久しぶりに見た「アイリス」をアイリスはじっと眺める。
「そうだな」
ジェイドはクスリと笑った。
「奥様はまだヴィクトリア様の目が覚めた事をご存知ない。ご自身の事で混乱されているし、床に就かれているんだ。ヴィクトリア様もまだ朦朧とされているし…」
「うん」
廊下を歩きながらジェイドが言い、アイリスは頷く。
ヴィクトリアの部屋の前に着くと、アイリスは大きく息を吸った。
お姉様のせいで私が死んだって、どう言う事なんだろう?
お姉様に会いたいけど、何か…ドキドキする。
「アイリス、大丈夫か?」
ジェイドが心配そうにアイリスを見る。
アイリスは自分の頬を両手でパンッと叩いた。
「うん。大丈夫」
扉を開けるジェイドの前を通って部屋に入る。
ヴィクトリア付きの侍女が寝室への扉の近くに立っていた。
「アイリス様…」
侍女がアイリスを見ながら呟く。
「お姉様は?」
侍女に声を掛けると、侍女は
「昨夜目を覚まされてからも夢と現を彷徨っておられるみたいで…時折りアイリス様を呼んで泣かれて…」
と悲痛な表情で言った。
「そう…」
「ヴィクトリア様、ずっと『私のせいでアイリスが死んでしまった』とうなされてらして…アイリス様、どうかヴィクトリア様にお姿を見せて悪夢から救って差し上げてください」
涙を滲ませて言う侍女の肩にアイリスは手を置く。
「わかったわ」
侍女が寝室の扉を開け、アイリスが中に入ると、アイリスに続いて入って来たジェイドが扉を閉めた。
カーテンを閉めた暗い部屋で、ヴィクトリアは眠っている。
「無理に起こさない方が良い?」
アイリスはベッドの傍に立ってヴィクトリアを見た。
事故前にはふっくらとしていた頬がすっかり痩けて、青白い顔色のヴィクトリア。
「そうだな」
アイリスの後方の壁際に立ったジェイドが言う。
「う…」
ヴィクトリアが眉を顰めて搾り出すように声を出した。
「…アイリス…ごめんなさい…」
「お姉様!」
「私のせいで…アイリスが…死んでしまった…」
瞑った眼から涙が溢れる。
アイリスはヴィクトリアの手を両手で握った。
「お姉様、私はここです。生きてます」
「アイリスが…」
「お姉様!起きてください」
ヴィクトリアは涙を流しながらイヤイヤと首を小さく横に振る。
「………か…ごめんなさい…」
か?
「お姉様?」
もしかして「か」って「殿下」の「か」?
ウォルター殿下の事?
アイリスの脳裏に朝見た画像が浮かんだ。
床に膝をついて顔を覆うヴィクトリアと、ヴィクトリアを責めているようなウォルターの姿。
「アイリス…ごめ……」
「お姉様!」
お姉様が何を思い込んでいて、誰に謝ってるのかはわからないけど、こんな夢の中にいてはダメだわ!
アイリスはヴィクトリアの手を離し、肩を揺さぶる。
「アイリス」
ジェイドが近寄って来てアイリスを止めようと手を伸ばした。
「手荒でも、こんな『夢』からは早く覚めた方が良いのよ!」
アイリスはジェイドの手を振り払い、ヴィクトリアの身体を揺らす。
「お姉様!起きて!」
「……ぅ…」
ヴィクトリアが目を開けて、空色の瞳がアイリスを見た。
-----
「ヴィクトリアが?」
朝、ケイシーからの連絡を受けてヴィクトリアの部屋を訪れたウォルターは、ケイシーの話しを聞いて目を見開く。
「はい。アイリス様は今ガードナー家へ戻られています」
「…アイリスを迎えに来たのはジェイド?」
「はい」
「そうか…」
ウォルターはため息混じりに言うと、ソファにもたれ天井を仰ぎ見た。
「ジェイドはヴィクトリアの様子について何か言っていたのかな?」
「いえ…私はヴィクトリア様が目を覚まされた事しか聞いておりません」
「そう」
そう言うと、ウォルターは天井を見つめたまま、少し考え込む。
ヴィクトリアが目覚めたなら、アイリスに告げるだろうか?
ウォルターは数秒目を閉じると、目を開け、ふぅっと息を吐き、ソファから立ち上がった。
「僕はこれからガードナー家へ行く」
馬車から降りたアイリスとジェイドがガードナー家の使用人出入口から屋敷の中へ入る。
そのままジェイドたち家族用の使用人部屋へと移動した。
「アイリス、これ被って」
ジェイドが白金で真っ直ぐな長髪の鬘をアイリスに差し出す。
「うん」
アイリスは眼帯を取ると、ワンピースのポケットに入れると後ろで結んでいる髪をくるくると纏めた。
「自分になるために鬘を被るって変な気分」
鬘を被り鏡に写る、久しぶりに見た「アイリス」をアイリスはじっと眺める。
「そうだな」
ジェイドはクスリと笑った。
「奥様はまだヴィクトリア様の目が覚めた事をご存知ない。ご自身の事で混乱されているし、床に就かれているんだ。ヴィクトリア様もまだ朦朧とされているし…」
「うん」
廊下を歩きながらジェイドが言い、アイリスは頷く。
ヴィクトリアの部屋の前に着くと、アイリスは大きく息を吸った。
お姉様のせいで私が死んだって、どう言う事なんだろう?
お姉様に会いたいけど、何か…ドキドキする。
「アイリス、大丈夫か?」
ジェイドが心配そうにアイリスを見る。
アイリスは自分の頬を両手でパンッと叩いた。
「うん。大丈夫」
扉を開けるジェイドの前を通って部屋に入る。
ヴィクトリア付きの侍女が寝室への扉の近くに立っていた。
「アイリス様…」
侍女がアイリスを見ながら呟く。
「お姉様は?」
侍女に声を掛けると、侍女は
「昨夜目を覚まされてからも夢と現を彷徨っておられるみたいで…時折りアイリス様を呼んで泣かれて…」
と悲痛な表情で言った。
「そう…」
「ヴィクトリア様、ずっと『私のせいでアイリスが死んでしまった』とうなされてらして…アイリス様、どうかヴィクトリア様にお姿を見せて悪夢から救って差し上げてください」
涙を滲ませて言う侍女の肩にアイリスは手を置く。
「わかったわ」
侍女が寝室の扉を開け、アイリスが中に入ると、アイリスに続いて入って来たジェイドが扉を閉めた。
カーテンを閉めた暗い部屋で、ヴィクトリアは眠っている。
「無理に起こさない方が良い?」
アイリスはベッドの傍に立ってヴィクトリアを見た。
事故前にはふっくらとしていた頬がすっかり痩けて、青白い顔色のヴィクトリア。
「そうだな」
アイリスの後方の壁際に立ったジェイドが言う。
「う…」
ヴィクトリアが眉を顰めて搾り出すように声を出した。
「…アイリス…ごめんなさい…」
「お姉様!」
「私のせいで…アイリスが…死んでしまった…」
瞑った眼から涙が溢れる。
アイリスはヴィクトリアの手を両手で握った。
「お姉様、私はここです。生きてます」
「アイリスが…」
「お姉様!起きてください」
ヴィクトリアは涙を流しながらイヤイヤと首を小さく横に振る。
「………か…ごめんなさい…」
か?
「お姉様?」
もしかして「か」って「殿下」の「か」?
ウォルター殿下の事?
アイリスの脳裏に朝見た画像が浮かんだ。
床に膝をついて顔を覆うヴィクトリアと、ヴィクトリアを責めているようなウォルターの姿。
「アイリス…ごめ……」
「お姉様!」
お姉様が何を思い込んでいて、誰に謝ってるのかはわからないけど、こんな夢の中にいてはダメだわ!
アイリスはヴィクトリアの手を離し、肩を揺さぶる。
「アイリス」
ジェイドが近寄って来てアイリスを止めようと手を伸ばした。
「手荒でも、こんな『夢』からは早く覚めた方が良いのよ!」
アイリスはジェイドの手を振り払い、ヴィクトリアの身体を揺らす。
「お姉様!起きて!」
「……ぅ…」
ヴィクトリアが目を開けて、空色の瞳がアイリスを見た。
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「ヴィクトリアが?」
朝、ケイシーからの連絡を受けてヴィクトリアの部屋を訪れたウォルターは、ケイシーの話しを聞いて目を見開く。
「はい。アイリス様は今ガードナー家へ戻られています」
「…アイリスを迎えに来たのはジェイド?」
「はい」
「そうか…」
ウォルターはため息混じりに言うと、ソファにもたれ天井を仰ぎ見た。
「ジェイドはヴィクトリアの様子について何か言っていたのかな?」
「いえ…私はヴィクトリア様が目を覚まされた事しか聞いておりません」
「そう」
そう言うと、ウォルターは天井を見つめたまま、少し考え込む。
ヴィクトリアが目覚めたなら、アイリスに告げるだろうか?
ウォルターは数秒目を閉じると、目を開け、ふぅっと息を吐き、ソファから立ち上がった。
「僕はこれからガードナー家へ行く」
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