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のために東国に来るのを拒んだのか?ウォルター」
「従兄弟殿が我が国とこの国との友好よりも優先した女なのだからどんな絶世の美女かと想像していたのだがな」
 夜、アイリスはベッドの中でラウルの言った台詞を思い出した。
 ウォルター殿下は「東国へ行きたくなかったから伯爵家の令嬢を娶る事にした」って言われてたわよね?
 でもラウル殿下の言い方だと、お姉様と結婚したかったから東国へ行くのが嫌だったって事になる。
 つまりウォルター殿下は以前からお姉様を好きだったって事…?

 ツキンッ。
 小さくアイリスの胸が痛む。
 もしかしたら本音と建前で、東国へはそう説明していたってだけかも。
 けど…ウォルター殿下、お姉様の事をずっと好きだったのかも知れないんだ。

-----

 晩餐会での席次は夫婦や婚約者やパートナーでも隣の席にはならないし、男性同士、女性同士が隣の席になる事はない。
 それは知ってたけど…何で私の隣がステファン殿下なの!?
 晩餐会、始まって随分経つし、隣の席の人と何も喋らないままなのも変よね?
 反対隣の公爵様とはどうにか世間話くらいはできたんだし…
 アイリスは自分の隣の席に座る第二王子ステファンを視線だけで見る。
 濃い紫の短い髪、同じく濃い紫の瞳、意志の強そうな眉のステファンは、ウォルターとは違う雰囲気を纏っていた。

「…何だ?」
 アイリスの視線を感じたのか、ステファンが前を向いたまま、小声で言う。
 ひゃ!視線だけで見てたつもりだったけど気付かれたわ。
「いえ…」
 アイリスは小さく首を横に振って俯いた。
「ウォルターの婚約者殿は相変わらず歯切れが悪いな」
 ステファンがほんの少し口角を上げて言う。
 え?ステファン殿下が「相変わらず」って言われる程お姉様とステファン殿下って話す機会があったの?
 そりゃ弟の婚約者なんだから挨拶したりはあるだろうけど…
 お姉様からもウォルター殿下からもステファン殿下の事は聞いてないから、お姉様とどの程度話したりする間柄なのかわからないし、迂闊な返答はできないわ。

「母親の企みに乗った結果、どうやら賭けには負けたようだな」
 ステファンはアイリスの方を見ずに小声で言った。
「!」
 …え?賭け!?
 思わずステファンの方を見るアイリス。
 ウォルターが少し離れた席からステファンを見るアイリスを見ている。
「そう睨むな。私はお前に同情しているのだからな」
「……」
 お、お前って…王子と伯爵令嬢って身分差があるにしても、王子が伯爵令嬢に「お前」って言うなんて、何だかすごく近しい関係みたいな感じがするけど…?

 いやいや、それより、同情しているって言われたわよね?ステファン殿下がお姉様に同情?
 そもそも賭けって何?ドリアーヌ様が言った「賭け」と同じ「賭け」?
 同じだとしたら、ドリアーヌ様とステファン殿下に何か繋がりがあるの?側妃様方の親戚とか?
 それに…母親の企みに乗った…?
 母親ってお義母様の事?
「企み…?」
 ぐるぐると考えていたアイリスが思わず小さく呟くと、ステファンが少し不思議そうな表情でアイリスを見た。
 あ、いけない。
 ここで私が「企みって何?」「賭けって何?」って顔をしたら、私が、当然話しが通じる筈のヴィクトリアじゃないと気付かれてしまう。
 でも何がなんだかわからないから「話しが通じてます」って顔もできないし…でも何か言わなくちゃ。

「何故…私が賭けに負けたと思われたのですか?」
 アイリスは意を決してステファンを見ながら言う。
「それはお前がにいるからだ」
 わかり切った事を、と言うような口調でステファンは言った。
 ここ?
 ここって晩餐会の事?

 アイリスがステファンの言葉の意味をどう聞こうかと考えていると、給仕が料理を持って来たので、そこで会話をする空気が切れてしまう。
 そしてそのままステファンと話す機会がないまま晩餐会はつつがなく終了した。









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