ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 ウォルターに手を引かれてセラフィナの誕生パーティーに戻って来たアイリスを見て、セラフィナは声を上げた。
「しょみんの子…じゃなくてアイリス!どこ行ってたの?何でお兄さまと一緒なの?」
 セラフィナと一緒にいたヴィクトリアも驚いている。
「庭の迷路に迷い込んでいたんだよ。それよりセラ、アイリスの事『庶民の子』なんて呼んだの?」
 咎めるような口調のウォルターに、セラフィナは唇を尖らせた。
「だって……でも『しょみんの子じゃなくてアイリスよ』って言い返されたわ」
 ウォルターは隣に立つアイリスを見る。
「ああ、それでセラに怒られるって言ったんだね?」
「……」
 視線を下に向けて頷くアイリス。

「ちゃんとしゃべれるんだから、さっきみたいに大きな声で言えば良いのに」
 首を傾げてセラフィナが言うと、アイリスは視線を上げた。
「…怒ってないの?」
 セラフィナは意外な事を言われたと言うように眼を見開く。
「怒ってなんてないわ。わたし、おともだちとたかくるしくないはなし方でおしゃべりしたかったの」
「セラ、くるしくない、だよ?」
くるしくない?」
 顔を見合わせて同じように首を傾げるウォルターとセラフィナを見て、アイリスは思わず吹き出した。
「あはは。そっくり!」

「そう?」
「かな?」
 また顔を見合わせたウォルターとセラフィナは、アイリスと一緒に笑い出す。
 そんな三人を困ったような、呆れたような、複雑な表情でヴィクトリアが見つめていた。

-----

「あ」
 繰り返した「今日」の朝、アイリスの起床のお世話に来た侍女が部屋に入って来たので、アイリスは思わず声を出す。
「?」
 訝し気な表情の侍女。
「…何でもないわ」
 私にとっては何度も何度も毎日毎日顔を見てた侍女で、勝手に他の人より親近感持ってるけど、相手にとっては事故の朝たまたま私の担当だっただけ。そして今日三日ぶりに私の担当になって部屋に来ただけなのよね。

「ニコラスさんにアイリス様を呼んで来て欲しいと言われまして…」
「!」
 ジェイドに何かあったんだわ!
 アイリスはソファから立ち上がると、ソファに立て掛けてあった松葉杖を掴んだ。
「車椅子をお持ちしましょうか?」
 相変わらずの無表情だけど、気を使ってくれるのはありがたいな。
「階段もあるし、松葉杖の方が早いわ」
 松葉杖をついて扉の方へ行くと、侍女が扉を開けてくれる。
「ありがとう」
「いえ」
 廊下へ出て階段の方へ少し進んでから、アイリスは侍女の方へ振り返った。

「ねえ、名前を聞いても?」
 私に名前教えたくらいでお義母様も怒ったりしないとは思うけど…まあ言い淀むようなら深追いはやめておこう。
「私の?ですか?」
 少し目を見開く侍女。
 あ、驚いてる。
「もちろん無理にとは」
「ケイシーです」
 侍女はアイリスの言葉に被せるように言う。
「え?」
「ケイシー・スミスです」
 あくまでも無表情な侍女に、何だか嬉しくなったアイリスはにっこりと笑った。
「そう。ケイシー、次は年齢を教えてね!」

 松葉杖をついて、使用人たちの部屋がある一階に下りたアイリスは、ジェイドの部屋の扉の前に立つと、扉をノックする。
 部屋から出て来たニコラスは、目の前に立つアイリスに目を丸くした。
「アイリス様!松葉杖で来られたのですか?お知らせくださればお迎えに上がりましたのに」
 申し訳なさそうなニコラスに、アイリスは苦笑いを浮かべる。
「松葉杖にも慣れたし、一階分くらいは平気よ。それよりジェイドは?」
「はい。ジェイドが目を覚ましまして、アイリス様にお会いしたいと…」
「!」

 アイリスは松葉杖を精一杯早く動かしてジェイドの寝室へと飛び込んだ。
「ジェイド!」
 ベッドの横にローレンが座っていて、アイリスを見て立ち上がる。
「まあアイリス様、松葉杖で来られたのですか?階段を踏み外したらどうするんですか」
「大丈夫よ」
「あんまり無茶するなよ。アイリス」
 ベッドからジェイドの声。

 アイリスがベッドに近付くと、ジェイドがアイリスを見ながら笑っていた。
「無茶するなはこっちの台詞よ…」
 ジェイドが、笑ってる。
 アイリスは涙ぐみながら言う。
「違いない」
 笑いながら言うジェイドのベッドの傍にアイリスは膝をついた。
「…良かった」
 毛布の上に両手を置いて、その上に額を付ける。
「心配掛けてごめんな」
 ジェイドが手を伸ばして、アイリスの頭をそっと撫でた。



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