ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 アイリスは幼い頃、王都の住宅地にある小さな一軒家で母と二人で暮らしていた。

 アイリスの母オリビエは貴族の生まれではないが、父親が羽振りの良い質屋を営んでいたため、オリビエと兄は学園へ入る事ができた。そこで同級生のガードナー伯爵家の嫡男フランクと出会い、二人は恋に落ちる。
 しかし伯爵家の嫡男と平民の娘との結婚は許されず、二人は学園を卒業した後、別れる事となる。
 数年後、フランクは親の決めた相手と結婚し、ヴィクトリアが生まれる。
 その頃、オリビエが経営が傾いた質店を助けるために娼館へ身売りしようとしている事を知ったフランクは、オリビエの家の借金ごとオリビエの身柄を買い取ると、オリビエに家を与え、愛妾として置いた。
 その後フランクとオリビエの間に生まれたのがアイリスだ。

 フランクはオリビエとアイリスが住む一軒家…別宅に頻繁に通っていたので、アイリスは母が亡くなるまで自分の母親が所謂愛人と呼ばれる立場である事を知らなかったのだ。

 フランクがオリビエとアイリスの元を訪れる際にはアイリスの遊び相手としてジェイドを連れて来ていた。
 ジェイドはガードナー伯爵家に仕える執事の息子で、ヴィクトリアと同じ歳でアイリスより二歳歳上。
 つまり、アイリスにとってのジェイドは幼なじみのお兄さんだ。

 アイリスが七歳の頃オリビエが急死し、アイリスはガードナー伯爵家の本宅の父の元へと引き取られる事になった。

「おかあさまと、おねえさま?」
 七歳のアイリスが首を傾げると、アイリスの前に跪いたフランクは頷く。
「ああ。アイリスのお義母様とお姉様が待つ家に行くんだよ」
「なんで?アイリスのお家はここよ?」
「オリビエが…アイリスの母さまがいなくなってしまったから、アイリスはもうここには住めないんだ」
「母さま…」
 母にもう会えない事を悟るアイリスは小さな瞳に涙を浮かべた。
「大丈夫。これからは父さまがずっと側にいる。それにヴィクトリア…お姉様はアイリスに良く似ていて、優しいし、すぐに仲良くなれるから」
 フランクは泣き出しそうなアイリスを抱きしめる。

「それに俺も同じ屋敷に住んでるんだから、いつでも会えるし」
 フランクの後ろに控えていた九歳のジェイドが自分を指差しながら言うと、アイリスは目を丸くした。
「ジェイドも同じおうちなの?」
「そうだよ。ずっと一緒だよ」
「ずっと?」
「そう。ずっと」
 フランクがアイリスの涙を指で拭う。
「父さまとジェイドがアイリスとずっと一緒にいる。だから父さまとジェイドと一緒に来てくれるかい?」
「うん」
 アイリスが安心したように笑うと、フランクとジェイドはホッと胸を撫で下ろした。

-----

 ウォルターがアイリスの部屋を出ると、入れ違うようにフランクが入って来た。
「お父様」
「ああ…良かったアイリス」
 フランクがベッドに座ったアイリスをギュッと抱きしめる。
「お父様、お姉様は意識不明だとウォルター殿下から聞きましたけど、容態はどうなんですか?それに、ジェイドは?」
 そうアイリスが言うと、フランクは眉を顰めた。

「ジェイドは…かなり重篤な状態だ」
「!」
 お姉様、ジェイド、早く会いに行かなくちゃ。
 アイリスはフランクの腕から抜け、ベッドから降りようとする。
 すると、フランクがそれを止めた。
「アイリス、怪我をしているんだ。まだ寝ていなくては」
「大丈夫です」
 立ちあがろうとすると、右足のふくらはぎがズキンッと痛む。
「痛っ…」
「ほら。ジェイドが咄嗟に庇ってくれたお陰でアイリスにほぼ怪我はないが、岩で足を切っているんだ。まだ歩かない方が良い」
「ジェイドが…じゃあますます行かなきゃ…」
「どうしてもと言うなら車椅子を持って来させよう」
 フランクと一緒に部屋へ入って来て、隅に控えていた侍女長にフランクが車椅子を持って来るよう指示すると、侍女長は部屋を出て行った。
 いつもならお父様の側に仕えてるのはニコラスの筈なのに。私の寝室だから男性のニコラスじゃなく侍女長を連れて来たのかも知れないけど…
 ニコラスはガードナー伯爵家の執事で、ジェイドの父親だ。
 通常、フランクが娘の寝室へ入る事はないので、こういう場合にニコラスが付いて来るのかどうか、アイリスにはわからないが、少なくとも続き部屋か廊下へは控えているのでは、と言う気がアイリスはしていた。
 そのニコラスが居ないと言う事は、おそらくジェイドに付き添っているのだろう。ニコラスが仕事より息子を優先するのをアイリスは見た事がない。つまりそうするほど…両親が呼ばれるほどジェイドは重篤な状態だと言う事なのだろう。

「それに…今はヴィクトリアには会いに行かない方が良い。マティルダが付いているからな」
 フランクが苦々しい表情で言った。


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