ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 ああ、やっぱり、だ…

「おはようございます。アイリス様」
 無表情の侍女が洗顔用具を持って立っている。
「…おはよう」
 アイリスはのそのそとベッドから起き出すと、室内履きへ足を入れ、洗面台のあるお風呂の方へと歩き出した。
「アイリス様、本日は」
「ウォルター殿下にお会いするため、お姉様と王宮へ行く日、よね?」
 侍女の言葉を遮るようにして言うと、いつも無表情な侍女が少し驚いた表情を見せる。
「そうです」
 私が侍女が喋ってるのに重ねてまで今日の予定について何か言う事なんて今までなかったもん。驚くのも無理はないわ。
 でも私にとっては、今日は何度も繰り返した「今日」だから。

 予定を変えようとしても駄目。
 何かが変われば…と、侍女を追い出したり、朝食を抜いたり、外出着を別の物にしたり、仮病を使ったり、隠れたり、逃げたり、してみた。

 結局は、外出着ドレスを着て玄関を出たアイリスの前には、馬二頭が引く馬車、御者、執事見習いジェイド。

「アイリス、おはよう」
「ちょっとジェイド『様』はどこに行ったのよ?」
「おっと。アイリス様、おはようございます。…どうもアイリスが『お嬢様』だと言う事に慣れなくて。顔はヴィクトリア様にそっくりなのに…違うモンだ」
 恭しく頭を下げて、頭を上げるとまたアイリスを呼び捨てにして悪戯っぽく笑うジェイド。
「そりゃあ私はお姉様みたいに生粋のお嬢様じゃないから仕方ないわ。でも私が母さ……市井に住まっていたの、七歳の時までよ?明日には十六歳になるんだから、もうこのガードナー伯爵家に来てからの方が長いのよ」
「もうそんなに経つのか…」
 ジェイドが感慨深げに言うのを見ながら、アイリスが視線だけで今出て来た屋敷の二階の窓を窺うと、女性らしき人影が見えた。

「誕生日、何が欲しい?」
 口角を上げてジェイドが言う。
 何も。
 だって「明日」は来ないもん。
 それにここでお姉様がやって来て、会話は途切れるわ。
 と、アイリスが考えた時、屋敷の玄関扉が開いた。
「アイリス、ジェイド」
「ヴィクトリア様、おはようございます」
 恭しく頭を下げるジェイド。アイリスもスカートを摘んで礼をする。
「お姉様におかれましてはご機嫌麗しく存じます」
「アイリスったら、姉妹なのだから堅苦しい挨拶はやめてといつも言ってるのに…」
 お姉様はそう言ってくださるけど、お義母様に見られたら…って、もうお義母様と顔を合わせる事もないんだけど、癖みたいなものよね。

 走り出した馬車の中でアイリスは黙って窓の外を眺めた。アイリスの隣に座ったヴィクトリアと、向かい側に座るウォルターが話している声が聞こえる。
 家々の屋根の向こうに王城の高い塔が見えた。
 あの塔の側の王宮にウォルター殿下がおられて、この馬車が着くのを…婚約者であるお姉様が着くのを待たれているのね。

 せめてウォルター殿下のお顔、一目でも見られたら良かったのに。
 セラにも、もう一度会いたかったな。

 アイリスはウォルターの少し困ったような笑顔を思い浮かべる。

「アイリス、誕生日何が欲しいんだ?」
 ジェイドが言うとアイリスの口は無意識に動いた。
「王都で流行ってるチョコケーキ。ホールで」
 ジェイドがクスリと笑う。
「ケーキって、十六になっても色気より食い気か?しかもホールって、どれだけ食う気なんだ?」
「違うわ。もちろんお姉様と一緒に食べるのよ。って言うか、いくらお姉様が幼なじみでもある私とジェイドに理解があると言っても、いくら何でも砕けすぎじゃない?」
 すらすらと言葉が出て来るわ。もう何度言ったかわからない台詞だもんね。
「あら。砕けたアイリスも、砕けたジェイドも、私は好きだわ。相変わらず二人は仲が良いわね」
 ニッコリと笑うヴィクトリア。
「ジェイドは兄みたいなモノですから」
「俺にはこんな食い意地の張った妹はいないな」

 この事故の後の事は私は知り得ないけど、唯一お姉様だけが助かった事は何だか感覚的にわかるんだよね。
 お姉様は腹違いの妹の私にもずっと優しかった。
 だから、お姉様にはウォルター殿下と幸せになって欲しいな。
 
 あ…そろそろか。 

 馬車が橋に差し掛かり、アイリスはギュッと眼を閉じた。

-----

 そして、目が覚めると、朝。

「おはようございます。アイリス様」
 無表情の侍女が洗顔用具を持って立っている。

「…おはよう」

 そしてまた今日を繰り返す。

 何度も。何度も。



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