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番外編 4
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4
「いやあ~本当にリリア嬢かわいかったなぁ。セルゴバが三」
「ダドリー、何回言うつもりだ?セルゴバが三」
棚の端から薬品の瓶を数えながらダドリーが言い、ハリジュがその数を記録している。
「だって本当にかわいかったし。ナルガノールが二。ヤジサンが…えーと、七」
「ナルガノールが二とヤジサンが七。ナルガノール注文しないといけないな」
「殿下もかわいいと思うだろ?チノカリンが五」
「チノカリンが五」
「リリア嬢15だから俺と十歳差か~でも愛があれば歳の差なんてって言うしな~」
「……」
「俺に爵位があれば…いやあっても子爵位じゃあ侯爵家の令嬢は身分違いか~」
「……」
「…殿下、もしかして無視してる?」
「やっと気付いたか」
ダドリーが乙女のように口に手を当てて「ひどいわ!」と言う。
「ふざけてないで早く数えないと、いつまで経っても棚卸しが終わらんだろう」
ハリジュが呆れたように言うと、ダドリーは両手の平を上にむけて「やれやれ」とポーズを取る。
「殿下、本当に俺は『愛があれば歳の差なんて』と、思ってるんだよ」
真剣な表情になって言うダドリーにハリジュは驚く。
「…お前本気でリリア嬢を…?」
ダドリーは慌てて手を振る。
「違うよ!殿下とリリア嬢の事!!」
「は?」
「結構お似合いだと思ったんだよ。二人を見て」
ダドリーにそう言われ、ハリジュは戸惑う。
リリアはセルダとまた婚約するかも知れないと思い、最近は手紙も出していなかった。
お似合い?リリア嬢と私が?
「…そう言われても、彼女をそういう眼で見る事はできない」
ハリジュがそう言うと、薬品庫の入口でガタンッと音がする。
ハリジュとダドリーが入口を見ると、青い顔をしたリリアが立っていた。
リリアは踵を返すと
「お仕事のお邪魔をしてごめんなさい」
と言い残し、足早に去って行った。
「殿下、追い掛けないの?って言うか、追い掛けた方が良いよ」
呆然と見送るハリジュにダドリーが言う。
「……」
「声が震えてたよ。…泣いてたかも」
その言葉を聞いて、ハリジュは駆け出した。
-----
「リリア!」
研究所の建物から出た所でリリアの手首を捕まえる。
「ごめんなさい…」
リリアはハリジュから顔を背けたまま言う。確かに声が震えている。
「何を謝る?」
ハリジュはリリアの手首を掴む反対の手で肩を掴みリリアを自分の方へ向かせる。顔を背けたリリアの目には涙が溜まっていた。
「…お手紙の返事を頂けないので…会いに…ご迷惑を…」
涙がポロポロ溢れた。
「迷惑なんかじゃない」
「…だって」
リリアは唇を噛み締める。
「だって?」
首を横にふるふると振る。
「…子供みたいなわがまま…言いたく…ありません…」
ハリジュは優しく笑う。
「リリアは自分で『私は本当にまだ子供だから子供扱いされても仕方ない』と言っていたろう?」
リリアはくりゃりと顔を歪ませる。
泣いてても、ペルシャ猫みたいだ。
…かわいいな。
ハリジュはその場にふさわしくないとわかっていながらもそう思う。
リリアは俯きながら小さな声で言う。
「…誰も…」
「うん?」
ハリジュがリリアの頬を両手で包む。青い瞳が涙でゆらゆら揺れていた。
涙が後から後から流れて来てハリジュの両手を濡らす。ひっくとリリアはしゃくり上げた。
「…セルダ殿下も、私と婚約し、てても…リネットを好きで、ハリジュ殿下も、断れ…ない、から、仕方なく…私の相手を、して…くれて」
リリアはしゃくり上げながら途切れ途切れに話す。
「…仕方なくじゃない」
ハリジュが言うと、リリアは首を横に強く振る。
セルダと婚約していた時も「婚約者の義務」で最低限のお茶会、手紙、贈り物、たまのエスコートしかなかった。蔑ろにされたとは思わないし、そんなものだと思っていたが、実際にセルダはリリアではない女性を想い、自分には見せない情熱を見せていた。
ハリジュも「断れない縁談相手」として、リリアの相手を押し付けられている。
結局は、誰も私の事を好きな訳ではないのだ、とリリアは思っている。
「またセルダでん、かと…こん、やくしないかって、言われても、セルダで、んかはやっぱりわた、しの事好き、じゃないし、ハリジュ殿下もお手紙も、くださらなく…なって…」
子供のように泣きながら言うリリアにハリジュの胸は締め付けられた。
「やっと、解放されたと…思っているん、でしょう?」
辛そうに絞り出すように言うリリアに、ハリジュは思わず口付けをする。
唇が軽く触れて離れると、リリアの大きな目がますます大きく開かれて、真っ直ぐにハリジュを見ていた。
「殿下…?」
ハリジュは「名前で呼んで」と囁く。
途端に顔だけでなく、耳と首まで真っ赤になったリリアを見て思う。
何てかわいいんだ。私の子猫。
ハリジュは甘く笑った。
「いやあ~本当にリリア嬢かわいかったなぁ。セルゴバが三」
「ダドリー、何回言うつもりだ?セルゴバが三」
棚の端から薬品の瓶を数えながらダドリーが言い、ハリジュがその数を記録している。
「だって本当にかわいかったし。ナルガノールが二。ヤジサンが…えーと、七」
「ナルガノールが二とヤジサンが七。ナルガノール注文しないといけないな」
「殿下もかわいいと思うだろ?チノカリンが五」
「チノカリンが五」
「リリア嬢15だから俺と十歳差か~でも愛があれば歳の差なんてって言うしな~」
「……」
「俺に爵位があれば…いやあっても子爵位じゃあ侯爵家の令嬢は身分違いか~」
「……」
「…殿下、もしかして無視してる?」
「やっと気付いたか」
ダドリーが乙女のように口に手を当てて「ひどいわ!」と言う。
「ふざけてないで早く数えないと、いつまで経っても棚卸しが終わらんだろう」
ハリジュが呆れたように言うと、ダドリーは両手の平を上にむけて「やれやれ」とポーズを取る。
「殿下、本当に俺は『愛があれば歳の差なんて』と、思ってるんだよ」
真剣な表情になって言うダドリーにハリジュは驚く。
「…お前本気でリリア嬢を…?」
ダドリーは慌てて手を振る。
「違うよ!殿下とリリア嬢の事!!」
「は?」
「結構お似合いだと思ったんだよ。二人を見て」
ダドリーにそう言われ、ハリジュは戸惑う。
リリアはセルダとまた婚約するかも知れないと思い、最近は手紙も出していなかった。
お似合い?リリア嬢と私が?
「…そう言われても、彼女をそういう眼で見る事はできない」
ハリジュがそう言うと、薬品庫の入口でガタンッと音がする。
ハリジュとダドリーが入口を見ると、青い顔をしたリリアが立っていた。
リリアは踵を返すと
「お仕事のお邪魔をしてごめんなさい」
と言い残し、足早に去って行った。
「殿下、追い掛けないの?って言うか、追い掛けた方が良いよ」
呆然と見送るハリジュにダドリーが言う。
「……」
「声が震えてたよ。…泣いてたかも」
その言葉を聞いて、ハリジュは駆け出した。
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「リリア!」
研究所の建物から出た所でリリアの手首を捕まえる。
「ごめんなさい…」
リリアはハリジュから顔を背けたまま言う。確かに声が震えている。
「何を謝る?」
ハリジュはリリアの手首を掴む反対の手で肩を掴みリリアを自分の方へ向かせる。顔を背けたリリアの目には涙が溜まっていた。
「…お手紙の返事を頂けないので…会いに…ご迷惑を…」
涙がポロポロ溢れた。
「迷惑なんかじゃない」
「…だって」
リリアは唇を噛み締める。
「だって?」
首を横にふるふると振る。
「…子供みたいなわがまま…言いたく…ありません…」
ハリジュは優しく笑う。
「リリアは自分で『私は本当にまだ子供だから子供扱いされても仕方ない』と言っていたろう?」
リリアはくりゃりと顔を歪ませる。
泣いてても、ペルシャ猫みたいだ。
…かわいいな。
ハリジュはその場にふさわしくないとわかっていながらもそう思う。
リリアは俯きながら小さな声で言う。
「…誰も…」
「うん?」
ハリジュがリリアの頬を両手で包む。青い瞳が涙でゆらゆら揺れていた。
涙が後から後から流れて来てハリジュの両手を濡らす。ひっくとリリアはしゃくり上げた。
「…セルダ殿下も、私と婚約し、てても…リネットを好きで、ハリジュ殿下も、断れ…ない、から、仕方なく…私の相手を、して…くれて」
リリアはしゃくり上げながら途切れ途切れに話す。
「…仕方なくじゃない」
ハリジュが言うと、リリアは首を横に強く振る。
セルダと婚約していた時も「婚約者の義務」で最低限のお茶会、手紙、贈り物、たまのエスコートしかなかった。蔑ろにされたとは思わないし、そんなものだと思っていたが、実際にセルダはリリアではない女性を想い、自分には見せない情熱を見せていた。
ハリジュも「断れない縁談相手」として、リリアの相手を押し付けられている。
結局は、誰も私の事を好きな訳ではないのだ、とリリアは思っている。
「またセルダでん、かと…こん、やくしないかって、言われても、セルダで、んかはやっぱりわた、しの事好き、じゃないし、ハリジュ殿下もお手紙も、くださらなく…なって…」
子供のように泣きながら言うリリアにハリジュの胸は締め付けられた。
「やっと、解放されたと…思っているん、でしょう?」
辛そうに絞り出すように言うリリアに、ハリジュは思わず口付けをする。
唇が軽く触れて離れると、リリアの大きな目がますます大きく開かれて、真っ直ぐにハリジュを見ていた。
「殿下…?」
ハリジュは「名前で呼んで」と囁く。
途端に顔だけでなく、耳と首まで真っ赤になったリリアを見て思う。
何てかわいいんだ。私の子猫。
ハリジュは甘く笑った。
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