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番外編 3

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 王宮の庭でのお茶会でハリジュの焼いたクッキー振る舞われたリリアは目を丸くしていた。
「え!?殿下が作られたんですか?本当に?ものすごく美味しいです!」
 リリアは止まらない様子でクッキーを続けて口にする。
「嬉しいな。今度はケーキを焼くよ。ああカップケーキなら寮に届けられるな」
「届けてくださるんですか!?」
 リリアが喜ぶ姿を見て、ハリジュは満足気に微笑む。
 その時、侍従がハリジュの元にやって来て、ダドリーが訪れていると伝えて来る。
「ダドリーが?」
 普段王宮に来る事などないダドリーだ。よほど急ぎの用なのだろうと侍従に通すよう言う。
「すまない。殿下。あ、いや、すみません。じゃなくて、申し訳ありません」
やって来たダドリーが礼を取りながらしどろもどろに言う。
「ここにはリリア嬢しかいない。普段のように話せ」
ハリジュが言うと、ダドリーは息を吐いた。
「助かる。勤務時間じゃないのにすまん。この間の薬を与えたマウスの動きがおかしくて」
「どんな?」
「それが…」

 ハリジュが立ち上がりダドリーと話している間、リリアは建物と建物の間を繋ぐ外廊下の方を眺めていた。
 ハリジュは何気なくリリアの視線の先を追う。
 その時、セルダが数人の役人と話しながら通りかかる。そのまますぐ建物へ入って行った。

 セルダを見ていたのか?

「…じゃあ戻って手配する。…殿下?」
 ダドリーの声に我に返る。
「あ、ああ、頼む」
 ハリジュが改めて視線を向けると、リリアはまだ外廊下の方を見ていた。無性にこちらを向かせたくなり、リリアを呼んだ。
「リリア嬢」
「はい」
「紹介しよう。同僚のダドリー・ライトだ」
 リリアは立ち上がり、ダドリーに礼を取った。
「ゴルディ公爵家のリリアと申します」
 挨拶を交わした後、ダドリーはハリジュの耳元に口を寄せる。
「殿下、リリア嬢めちゃくちゃかわいいね」
 ハリジュは苦虫を噛み潰したような顔でダドリーを睨む。
「…さっさと戻れ」

「何を見ていたんだい?」
「え?」
「さっき、私がダドリーと話している時、向こうを見てたよね?」
 ハリジュは外廊下の方を指差す。リリアは軽く首を傾げた。
「人が通るのを何となく眺めていただけですわ」
「…セルダが通っていたね」
 ハリジュはリリアを窺うように言う。さりげなく言おうとし過ぎて不自然になってしまった気がした。
「そうですね」
 リリアはごく自然に頷いた。そしてニコリと笑って言う。
「ダドリー様と仲が良ろしいのですね。気さくにお喋りされていて驚きました」
「ああ、あいつは遠慮がないんだ」
 話を逸らされた。とハリジュは感じた。

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 約束通りカップケーキを寮のリリア宛に届けた日、仕事を終えて王宮に戻ったハリジュの元へ「リネット・バーストン伯爵令嬢が行方不明になっている」との知らせが秘密裏に届く。
 王家に近い数名以外には秘匿されているが、リネットはセルダの求婚相手だ。
 年若い令嬢の醜聞となる事件であるため、表沙汰にはしないよう救出に動いていると報告がある。
 主だって動いているのはバーストン伯爵チャールズとリリアの兄でリネットの婚約者セドリックらしい。

 リリア嬢も心配しているだろうな。

 夜更けに「無事救出」との知らせがあり、ハリジュもひとまず一息吐いた。

 翌日、チャールズとセドリック、ゴルディ侯爵が内々に事後の報告をしに王宮を訪れた。国王、王妃、セルダ、ハリジュが同席する。
 内々の話なので、謁見室ではなく会議室だ。
 その席で王妃が言った。
「人の口に戸は立てられません。このような事になってしまってはリネット・バーストン伯爵令嬢を王太子妃とするのは難しいかと…」
「母上!」
 王妃の言葉を遮ってセルダが立ち上がる。
「私もそのように存じます。セルダ殿下」
 チャールズが頭を下げると、セルダは唇を噛み、そのまま会議室を出て行く。
 王妃はセルダの出て行った扉を見ながら言った。
「そこで…リリア・ゴルディ侯爵令嬢をセルダの婚約者に戻す…王太子妃にしたいのです」

 国王と王妃以外の全員が一瞬の間固まる。途端、セドリックは「ふざけるな!」と激昂し、ゴルディ侯爵とチャールズに嗜められた。

 リリア嬢を…また、セルダと?

 国王と王妃は、この話はまだここだけの話で、リリアが拒むならなかった事にすると約束していた。

 …リリア嬢がまだセルダを好きならば、悪い話ではないな。
 
 ハリジュはお茶会の時、リリアが外廊下の方を見ていたのを思い出す。そして、潤んだ眼で笑った表情を。

 胸に靄がかかった気がした。

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