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番外編 1

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「実際、私はまだ子供ですもの。子供扱いされても仕方ありませんわ」

 …ほう。

 目の前の、まだ幼さの残る顔立ちの令嬢にハリジュは関心を持った。

 王太子である、いや王太子であった甥の婚約破棄騒動により、自身にも15歳という、ハリジュからすれば幼いとしか言いようのない令嬢との婚姻の打診があった。
 兄王の息子、第一王子で王太子だったパリヤが王位継承権剥奪、王家からの除籍の後、第二王子のセルダが立太子する事になり、セルダはリリアとの婚約を解消する事となった。
 リリアには何の非もない婚約解消という事で、王家がリリアの結婚相手を責任を持って選ぶことになる。

 そこで、候補となったのが、ハリジュと、隣国の王子だったのだ。

 ハリジュは結婚するつもりはないので、今まではのらりくらり縁談をかわして来たが、今度の話はこちらから断ると言う選択肢はなかった。
 しかし、二十も歳上の男なんて、15歳の少女に気にいられるはずがないと思いながら、王妃が計画した顔合わせのお茶会に出る。

 猫みたいだな。

 お茶会の席でリリアを初めて見た時ハリジュはそう思った。
金のふわふわした髪、少しつり目の青い瞳、幼さのまだ残る顔立ち。髪の毛が柔らかそうだな、と考えていると、リリアが言ったのだ。
「実際、私はまだ子供ですもの。子供扱いされても仕方ありませんわ」
 あまり話を聞いておらず、前後の文脈はわからなかったが、どんなに小さい女の子でもレディとして扱われる事を良しとする令嬢ばかりの中、ハリジュの眼にはリリアはとても珍しく映った。

 顔合わせから一週間、リリアから「ハリジュは気に入らなかった」旨の連絡はない。
 リリアが自分を気に入ったのかどうかは分からないが、そろそろ動かなくては蔑ろにされていると感じるだろう。
「カードと、花かな。最初は」
 ハリジュが呟くと、薬学の研究所の同僚であるダドリー・ライトが隣の席から声を掛ける。
「殿下、もしかして彼女できた!?」
「ダドリーに『殿下』と言われても、敬われ感全然ないな」
「まあ俺にとっては『殿下』って、すでに愛称だもんな」
 ダドリーは25歳で、ハリジュより十歳年下だ。ライト子爵家の三男で、家は長兄が継いでいる。独身で研究一筋だが、堅物ではなく、むしろ逆だ。
「で、彼女?」
 ダドリーは緑の瞳を光らせて迫って来る。
「と言うか、甥っ子の尻拭いと言うか…」
「ああ、例の。二十も下だっけ?犯罪だな」
 面白そうに言うダドリーを軽く睨む。
「貴族社会じゃ珍しい話でもないだろ」
「まあね。ましてや王族だとね。で、独身主義は返上するの?いよいよ」
「さあね」

-----

 リリア嬢はこういう顔が好みなのか?

 ハリジュはリリアをお茶会に招待してみた。さすがにセルダの婚約者だっただけあって、王宮にもお茶会にも慣れているようだ。ただ、ハリジュと目が合うと、リリアは頬を赤くして目を逸らしてしまう。
 ハリジュとセルダは叔父と甥だけあって顔立ちが似ていた。ハリジュの方が背が高く、髪も長く、色素が薄い感じで眼鏡を掛けているので雰囲気はかなり違うのだが。
「リリア嬢はお兄さん…セドリック殿と何歳違うんだったかな?」
 リリアの兄セドリックが、かなり妹を溺愛しているのは有名な話だ。しかもどうやら、セルダの意中の令嬢はそのセドリックの婚約者らしい。
「兄とは7歳違いですわ」
「お兄さんと仲良しなんだよね?」
にっこり笑って言うと、リリアは露骨に嫌そうな表情かおをする。

 おや。こういう表情もするんだ。

「仲良しじゃありませんわ。兄は過保護なんです!」
「セドリック殿がリリア嬢をかわいがっているのは皆良く知ってるよ」
 リリアがますます嫌そうな表情かおになり、ハリジュは何だか面白くなってきた。
「何でも、リリア嬢に近付く男性は全員セドリック殿に鉄拳制裁されるとか?」
「やめてください!兄ならやりかねない…」
 リリアは口を手で塞ぐ。それからハッと気付いたようにハリジュを見る。
「私に近付く男性なんておりませんわ。セルダ殿下とは婚約しておりましたけど、セルダ殿下も…」
 セルダも結局、リリアよりリネットを好きだったのだ。
「いや、セルダと婚約していたから近付く男性がいなかっただけだろう。リリア嬢は今から求婚がたくさん来ると思うよ」
 ハリジュが言うと、
「…ありがとうございます」
 リリアはニコッと笑った。

 …これは愛想笑いだな。

 とハリジュは思った。
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