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「ああ、リリア嬢、ここにいて。リネットもそのままで」
セルダは部屋を出ようと立ち上がったリリアを制する。
リリアはそのまま椅子に座り直した。確かにここでリネットとセルダを二人きりにする事はできない。
「リネット、怖い思いをさせてすまなかった」
頭を下げようとするセルダに、リネットは慌てて手を振る。王族に頭を下げさせる訳にはいかないのだ。
「殿下のせいではありませんから!」
「それでも私の婚約者騒動のせいだ」
セルダが苦しげに言うと、リネットは肩を竦める。
「…伝染するのかしら?」
「え?」
「ん?」
リネットの言葉に、リリアとセルダが首を傾げる。
「『真実の愛』って伝染するのかしら、と思ったんです」
「「伝染?」」
リリアとセルダの声が重なる。
リネットは頷いた。
「パリヤ殿下が『真実の愛』を見つけたら、アリシア様も『真実の愛』を貫くと言われて…セルダ殿下も…」
リネットが眉を寄せて言うと、リリアがクスクスと笑う。
「確かにそうね。伝染しているわ」
セルダもふと表情を緩めた。
「そうだな」
リリアは立ち上がってセルダに向けて礼を取る。
「セルダ殿下、私も『真実の愛』を見つけましたわ。もっとも相手はそう思っておられないかも知れませんが」
「叔父上か…」
リリアはにっこりと笑う。
「殿下にも『真実の愛』が見つかるようにお祈りしております」
つまり、セルダにとってのリネットは「そう」ではない、と言う事だ。
「…リネット」
セルダは俯いてふう~と息を吐くと、顔を上げて真っ直ぐにリネットを見る。
「はい」
「諦めきれなくて、リネットの気持ちを確認したくて、来てしまった。リネットの気持ちが私にあるなら、反対意見など、どうとでもしようと」
リネットが困ったように眉を寄せるのを見て、セルダは続けた。
「…君も、見つけたのかい?」
リネットは背筋を伸ばし、はっきりと「はい」と答えた。
-----
エバンス侯爵家は爵位を剥奪され、取り潰される事となった。
リネットがセルダの婚約者候補であった事は公表されないままだったが、諸々の事柄を繋ぎ合わせ、そうであった事は薄っすらと悟られているようだ。
リネットとリリアはしばらく学園を休んだが、何事もなかったかのように復帰し、表立っては誰も何も言わなかった。
オリビアは退学し、家族で親戚のいる遠い領地へ旅立ったそうだ。
「リネット!聞いて!」
リリアがリネットの寮の部屋へ駆け込んで来る。満面の笑みだ。
「どうしたのリリア」
「ハリジュ殿下が卒業パーティーにドレスを贈ってくださるって!」
リリアがリネットの手を取り、上下にぶんぶんと振る。
ドレスを贈られるという事は、ハリジュはリリアをパートナーに選んだという事だ。
「許さないぞ!リリア」
リリアの後からセドリックが入って来る。
「あんなおっさんがリリアの相手だなんて冗談じゃない!」
「セディ」
さすがに王族に「おっさん」は不敬だろう。
「兄様は誰であろうと気に入らないだけでしょう!?」
リリアがそっぽを向く。
「そんな事はない。リリアの相手は若くて有能で見目麗しくて家柄も良くてリリアを大切にしてくれて…」
「『若い』以外は当てはまってるわ」
リネットがボソッと呟く。
「リネット!?」
「そうよね。さすがリネット!」
相変わらずの賑やかさだ。
「セディは私にドレスを贈ってくれないの?」
「!」
リネットが上目遣いでセドリックを見ながら言うと、セドリックは言葉に詰まる。
「…色は青で、装飾は金だ」
そして絞り出すように言った。
考えていたらしい。青はセドリックの瞳の色。金は髪の色だ。
「独占欲丸出しね。兄様」
「うるさい!」
リリアに揶揄われてセドリックは怒っているが、耳が赤くなっていて、リネットはくすぐったいような気持ちになる。
じゃあ私はセディにクラバットを贈ろうかな。
新しいリボンも良いかも。
今日もセドリックの髪に結ばれているリボンを見て、リネットはそっと微笑んだ。
色はもちろんオレンジだ。
「ああ、リリア嬢、ここにいて。リネットもそのままで」
セルダは部屋を出ようと立ち上がったリリアを制する。
リリアはそのまま椅子に座り直した。確かにここでリネットとセルダを二人きりにする事はできない。
「リネット、怖い思いをさせてすまなかった」
頭を下げようとするセルダに、リネットは慌てて手を振る。王族に頭を下げさせる訳にはいかないのだ。
「殿下のせいではありませんから!」
「それでも私の婚約者騒動のせいだ」
セルダが苦しげに言うと、リネットは肩を竦める。
「…伝染するのかしら?」
「え?」
「ん?」
リネットの言葉に、リリアとセルダが首を傾げる。
「『真実の愛』って伝染するのかしら、と思ったんです」
「「伝染?」」
リリアとセルダの声が重なる。
リネットは頷いた。
「パリヤ殿下が『真実の愛』を見つけたら、アリシア様も『真実の愛』を貫くと言われて…セルダ殿下も…」
リネットが眉を寄せて言うと、リリアがクスクスと笑う。
「確かにそうね。伝染しているわ」
セルダもふと表情を緩めた。
「そうだな」
リリアは立ち上がってセルダに向けて礼を取る。
「セルダ殿下、私も『真実の愛』を見つけましたわ。もっとも相手はそう思っておられないかも知れませんが」
「叔父上か…」
リリアはにっこりと笑う。
「殿下にも『真実の愛』が見つかるようにお祈りしております」
つまり、セルダにとってのリネットは「そう」ではない、と言う事だ。
「…リネット」
セルダは俯いてふう~と息を吐くと、顔を上げて真っ直ぐにリネットを見る。
「はい」
「諦めきれなくて、リネットの気持ちを確認したくて、来てしまった。リネットの気持ちが私にあるなら、反対意見など、どうとでもしようと」
リネットが困ったように眉を寄せるのを見て、セルダは続けた。
「…君も、見つけたのかい?」
リネットは背筋を伸ばし、はっきりと「はい」と答えた。
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エバンス侯爵家は爵位を剥奪され、取り潰される事となった。
リネットがセルダの婚約者候補であった事は公表されないままだったが、諸々の事柄を繋ぎ合わせ、そうであった事は薄っすらと悟られているようだ。
リネットとリリアはしばらく学園を休んだが、何事もなかったかのように復帰し、表立っては誰も何も言わなかった。
オリビアは退学し、家族で親戚のいる遠い領地へ旅立ったそうだ。
「リネット!聞いて!」
リリアがリネットの寮の部屋へ駆け込んで来る。満面の笑みだ。
「どうしたのリリア」
「ハリジュ殿下が卒業パーティーにドレスを贈ってくださるって!」
リリアがリネットの手を取り、上下にぶんぶんと振る。
ドレスを贈られるという事は、ハリジュはリリアをパートナーに選んだという事だ。
「許さないぞ!リリア」
リリアの後からセドリックが入って来る。
「あんなおっさんがリリアの相手だなんて冗談じゃない!」
「セディ」
さすがに王族に「おっさん」は不敬だろう。
「兄様は誰であろうと気に入らないだけでしょう!?」
リリアがそっぽを向く。
「そんな事はない。リリアの相手は若くて有能で見目麗しくて家柄も良くてリリアを大切にしてくれて…」
「『若い』以外は当てはまってるわ」
リネットがボソッと呟く。
「リネット!?」
「そうよね。さすがリネット!」
相変わらずの賑やかさだ。
「セディは私にドレスを贈ってくれないの?」
「!」
リネットが上目遣いでセドリックを見ながら言うと、セドリックは言葉に詰まる。
「…色は青で、装飾は金だ」
そして絞り出すように言った。
考えていたらしい。青はセドリックの瞳の色。金は髪の色だ。
「独占欲丸出しね。兄様」
「うるさい!」
リリアに揶揄われてセドリックは怒っているが、耳が赤くなっていて、リネットはくすぐったいような気持ちになる。
じゃあ私はセディにクラバットを贈ろうかな。
新しいリボンも良いかも。
今日もセドリックの髪に結ばれているリボンを見て、リネットはそっと微笑んだ。
色はもちろんオレンジだ。
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