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リネットはセルダがセドリックに宛てた手紙を見て、だからリリアを迎えに来た時も部屋に入らなかったのか。と納得する。

セルダ殿下、そんな事頼んでたのね。

冬期の終わりまであと三ヵ月。リネットはセルダの甘さの混じる紫の瞳を思い浮かべた。

私が王太子妃とか、将来は王妃だとか、何だかいつまで経っても現実味がないわ。
お話をお受けして、発表されて、王妃教育が始まったら実感するのかしら?

…お断りしたとして、セドリックの婚約者にまた何事もなかったかのように収まるのかしら…セドリックももう私じゃない結婚相手を考えていてもおかしくないのに。
そもそも親が仲良くて幼なじみなだけの婚約だもの。好きだとか、そういうの全然ないんだし。

そしてセルダからの手紙の下へ令嬢の姿を描いた絵が数枚入っているのを見つけた。

これは…縁談の…?

絵は五枚あり、それぞれ違う令嬢だった。引き出しに放り込んであるということは、興味がなかったのだろうか。

みんなかわいいな。
この方なんか何となくリリアに似てるし…でも嫌だと言ってたとおばさま言ってし…断ってるのよね。

姿絵を眺めると、こう言う物は実際より割増で良く描かれているのはわかっていても、セドリックの好みの令嬢がいたかもと思ってしまう。
姿絵を元のように戻そうとした時、下にあった封筒や便箋の隙間から本があるのが目に入る。
封筒や便箋で隠すように一番底にあるので、いけないとは思いながら引っ張り出してみた。
表紙が見えないようにカバーが掛けてある。
リネットは絨毯敷の床に座り込み、膝の上で本の真ん中あたりを開いて見た。

小説…?

え、これ、え?え!?

中の文章を少し読んだリネットは混乱しながら、表紙を開いたところにあるタイトルを見た。

【禁断の溺愛】

「リネットあった?」
リリアが戻って来てドアが開く音がしたので、リネットは咄嗟に本をスカートの中に隠す。
「な、ないわ」
「兄様どこに置いたのかしら?もしかして捨てたのかしら?」
リリアはサイドボートを探し始める。
「あの、私もお花を…」
リネットは花摘みに行くふりでセドリックの部屋を出ると、リリアの部屋に戻る。
部屋に侍女はいなかったのでほっとしながら、持って来た鞄に本を押し込む。そしてまたセドリックの部屋の前に立った時、部屋のドアが内側から開いた。
「あったわ」
リリアが散らしを掲げながら苦笑いをしている。紙はクシャクシャになった物をリリアが広げたらしい。
「本当に捨てる気だったみたい」

その後、寝るまでリリアは「ハリジュに子供扱いされているのか」「ハリジュは少女趣味なのか」「少しはリリアに好意があるのか」と語っていたが、リリアは話に集中できなくて生返事ばかりになってしまった。

深夜、リリアが眠っているのを確かめて、リネットはリリアの隣に寝ていたベッドから抜け出す。
そっと鞄を開けてセドリックの机から持って来てしまった本を取り出し、窓から差し込む月明かりを頼りに内容を確認した。

ーそれは、官能小説だった。それも実の兄と妹の。

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視察から戻ったセドリックは、引き出しの中の異変にすぐに気が付いた。
セドリックが家に帰って来た時、リリアに変わった様子はなかったように思う。では誰が?
セドリックは立ち上がり、リリアの部屋をノックする。
「…俺の部屋に入ったか?」
部屋のソファで刺繍をしていたリリアが、刺繍の枠をテーブルに投げるように置いて立ち上がる。
「そうよ!兄様に遊技団の散らしを取り上げられたから探しに行ったわ」
近寄ってきたリリアに睨まれて、セドリックは一歩後退りする。やはりリリアがあの本を…?
「あ、ああ」
「クシャクシャにして!捨てるつもりだったんでしょう?酷いわ」
想像と違う台詞が発せられ、セドリックは安心すれば良いのか焦れば良いのかわからなくなる。
「…すまない」
「兄様が謝るなんて!?」
思わず謝罪の言葉が出て、リリアが驚愕する。
「一人で…?」
「え?」
「部屋に入ったのはリリア一人で?」
リリアは目を逸らす。
「…リネットと」
「!?」
「兄様?」
セドリックは片手で顔を覆い、小さく「最悪だ」と呟いた。

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