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「ねえ、リネット、うちに泊まりに来ない?」
秋期の終業式の日の午後、帰省の荷物を持ったままリネットの部屋を訪れたリリアが言った。
明日から休暇なのでみんな寮を出て家に帰るのだ。
もうすぐセドリックがリリアを迎えに来るらしい。リネットの家からの迎えは夕方だ。
「え、でも…」
リリアの家と言えばセドリックもいるのだ。
「兄様なら明後日から新しい学校を作る視察で地方へ行くの。一週間はいないから大丈夫よ」
リリアはもじもじしながらポケットから封筒を取り出す。
「あのね、さっき寮に戻ったらハリジュ殿下からお手紙が届いてたの!」
リリアはその手紙や、ハリジュについて話したくてウズウズしているようだ。いつもなら寮の部屋で消灯間際まで話すのだが、今日はそうできないのでリネットを家に誘っているのだ。
リネットはセドリックがいないなら良いか。と承諾した。

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リネットがゴルディ家を訪れるとリリアとリリアの母が迎えてくれた。
「リネットちゃん久しぶりね。お父様とお母様もお元気かしら?」
「はい。二人とも領地で気ままに過ごしてるみたいです」
「いいわねぇ。うちも早く家督を譲ってのんびりしたいわぁ」
リリアの母は羨ましそうに言う。
「リネットの家はお兄様が結婚されてるから」
リリアが言うと、母はため息を吐く。
「そうよね。セドリックも早く結婚してくれると良いのだけど、あのは嫌、このは嫌ってうるさくて」
母の言葉にリネットは大きく目を見開く。
リリアがハッとした様子で母の言葉を遮る。
「お母様!」
母もしまったという風に手を口に当てた。
「リネット!私の部屋へ行きましょう!」
リリアがリネットの手を取って立たせ、ぐいぐい引っ張って応接室を出た。

セドリックは侯爵家の嫡男だ。リネットとの婚約がなくなる可能性があるのなら、次の縁を求めるために侯爵家が早めに動くのは当たり前の事だ。リネットもそれは頭ではわかっている。
それでも胸に重い塊ができたような気がした。

リリアの部屋に入ると、リリアはふうーっと息を吐きながらソファへ座る。リネットも無言でリリアの向かいに座った。
「ごめんね。リネット」
「ううん。当然の事だもの」
リネットが小さく笑って言うと、リリアは横に首を振った。
リリアの侍女が紅茶とお菓子を運んで来て、テーブルに置く。しばらく沈黙が続いた後でリネットが口を開いた。
「リリア、ハリジュ殿下からのお手紙には何が書いてあったの?」
空気を変えようと、リネットが敢えて明るい声を出した事に気付いたリリアは、自分も明るく言った。
「今度王都の広場に遊技団が来るんですって。それを観に行きましょうって。でも子供向けみたいなのよね」
リリアは首を傾げながら肩を竦める。
「そうなの?」
「うん。遊技団の宣伝の散らしが同封されて…あ、そうだ!兄様に取り上げられちゃったのよ!」
「セドリックに?」
「そうなの!『いい歳した男が二十も下の女に興味を持つなんて変態に決まってる!』って」
「…言いそうね」
「でしょ。取って来るわ」
「リリア様、わたくしが参ります」
部屋の隅に控えていた侍女が言うが、リリアは手を振って立ち上がる。
「兄様の部屋から勝手に持ち出したら貴女が叱られるわ。私とリネットで行くから大丈夫よ」
「私も!?」

リリアが、自分の部屋の斜め向かいのセドリックの部屋のドアを開ける。
「どこかに収めてるのかしら?」
セドリックの部屋のテーブルの上にもデスクの上にも何も置いていない。
リリアがデスクの引き出しを開けて中を探る。
リネットは久しぶりに入ったセドリックの私室をぐるりと見回した。

この部屋に入ったのは学園に入学してから始めてかしら。
あまり変わってないのね。

「リネット、ちょっと探してて。私花摘みに…」
「ええ!?私をここに置いて行くの?」
「すぐ戻るわ」
リリアはそそくさと部屋を出て行く。
「もう」

あまり触ると叱られるかしら。

リネットは先程リリアが開けた引き出しの下の段の引き出しを開ける。
仕事の資料か、紙を束ねた物などが無造作に入れてある。
その引き出しを閉めて、その下の引き出しを開ける。

あれ、この字…セルダ殿下?

手紙などが入ったその引き出しの、一番上に開いたまま入っていた便箋には、リネットも今は見慣れたセルダの書いた文字があった。

【私がリネット嬢に求婚している間はなるべくリネット嬢に会わないようにして欲しい】
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