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番外編6
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「潜伏期間は三日程度だから、王都に着くまでには経過するだろうけど、その間なるべく他の人と接触しないようにね」
「ああ」
「わかったわ」
王都へ出発する前にロードはアランとエリザベスと話しながら病院の廊下を歩く。
「ベアトリス様はどうなの?」
「昨日の今日だからね。今が一番熱は高いな」
苦しそうなベアトリスの様子を思い出す。
「ねえ、俺が…ベアトリスを修道院から出してやりたいなんて思うのは、差し出がましい事かな?烏滸がましい?」
俺のせいで人生が変わってしまったベアトリスを、自由にしたい、幸せになって欲しいと思うのは、ただのエゴだろうか?
「ベアトリス嬢がそれを望むなら…ただ、修道院を出ても実家へは戻れないだろう?生活はどうするんだ?」
それは、アランの言う通りか…
「あら、じゃあロードと結婚すれば良いんじゃない?」
「え?」
「修道院を出るための寄付をロードが出す理由にもなるし、偽装ででも結婚して、ベアトリス様は看護師になるとか、何か手に職をつけてから離婚すればどうかしら?」
エリザベスは人差し指を立てて、口元に当てて言う。
さすが小説家…考える事が一味違うなあ。
「なるほど」
偽装結婚か。
「リジーそれは…」
「あら。もちろんベアトリス様が望むなら、よ?」
エリザベスはニッコリと笑って言った。
-----
ロードはベアトリスの病室に入ると、ベッドの枕元に椅子を持って来て座る。
息が荒い。
手首を持って脈を取る。
「…う」
少し唸って眉を顰めるベアトリス。
「ベアトリス、寒いの?」
「…ロード…様」
薄く目を開けて頷くベアトリス。
悪寒があるという事はまだ熱が上がるって事か…もう少し様子を見て解熱剤を処方しようかな。
「毛布をもう一枚持って来るよ」
ロードが立ち上がり掛けると、ベアトリスは震える手でロードの白衣の袖を摘んだ。
「一人は…嫌…」
小さな声で呟くベアトリス。
「わかった」
ロードはベッドに座ると、ベアトリスの身体を毛布で包む様にして、ヘッドボードに寄り掛かりベアトリスを毛布ごと後ろから抱き込んだ。
「…ロード様?」
熱で力の入らないベアトリスは、ロードの首元にもたれる形になる。
「少しは暖かいかな?」
こくんと頷く。
「良かった。しばらくこうしてるね」
ロードは腕の中でウトウトと眠りにつき始めたベアトリスを見ながら呟く。
「ベスちゃんは偽装結婚って言ったけど、偽装じゃなくても良いような気がして来たな…」
普段は修道服のベールで隠されているベアトリスの髪の毛を撫でる。
もしこうしてベアトリスを抱きしめてる処を誰かに見られたら、ベアトリスは不貞で婚約破棄されて修道院に入ったのに、そこで医療奉仕先の医師を誑かした、とんでもない修道女って事になるのかな?
でもさ、考えてみたら、ベアトリスの不貞の相手は俺だよ?
別々の道を歩んでた二人が偶然ここで出会うのって、ある意味運命的じゃない?
相手が俺なんだから、ここで恋に落ちたとしても、一途な純愛って捉え方もできるんじゃないかな。
「ちょっとこれはベスちゃんにお願いしなきゃいけないかな」
パトリシアとアレンをモデルにしたエリザベスの小説は、二人の結婚を後押しする、好意的な空気を作り出した。
この間までエリザベスが西国から原稿を送って連載されていた小説は、エリザベスとアランがモデルだ。
婚約解消された者同士が長い間友人として親交を深めていたが、双子の妹王女が他国へ留学する事になり、公爵令息は自分が王女を愛している事に気付き、他国へ王女を追いかけて行く。他国での再会までに王女にも公爵令息にも様々な障害や新しい出会いもあるが、再会した途端、互いに想いが溢れ出るのだ。
この小説も大人気で、連載が終了したばかりなのに続編を望む声が多数上がっているらしい。
「自分がモデルだと美化し放題。盛り放題できて楽しいわ!」
いつかの手紙にそう書いてあったっけ。ベスちゃんらしいな。
続編で、今度は俺とベアトリスの物語を書いてもらおう。
盛り盛りで美化美化でも良い。絶対にハッピーエンドの物語にしてもらうんだ。
ロードはベアトリスを抱く腕に力を入れた。
-----
…私、この腕に抱かれたのを、昨日の事のように覚えてる。
あれは、私が生きていた中で一番…一番幸せな瞬間だったから。
ベアトリスが幸せな気持ちで目を覚ますと、ロードが同じベッドに横たわり、毛布に包まれたベアトリスを抱きしめていた。
「ロード様!?」
慌てて起き上がろうとして、眩暈を覚えた。
「おっと。目が覚めた?まだ熱が高いから起きちゃ駄目だよ」
ロードが改めてベアトリスを抱き込む。
ドッドッドッと自分の心臓の音が身体中に響く。熱いのは、この状況のせい?それとも病気のせい?
「あの…ロード様…移りますよ?」
「この状況でその心配をするんだ」
ロードはふふっと微笑むと、ベアトリスの眼を覗き込む。
「ロード様?」
何だかクラクラするのは、熱のせいよね…?
「ベアトリス」
「…?」
何だか真剣な眼差しなのは…何故…?
「還俗して、俺と結婚して欲しい」
「潜伏期間は三日程度だから、王都に着くまでには経過するだろうけど、その間なるべく他の人と接触しないようにね」
「ああ」
「わかったわ」
王都へ出発する前にロードはアランとエリザベスと話しながら病院の廊下を歩く。
「ベアトリス様はどうなの?」
「昨日の今日だからね。今が一番熱は高いな」
苦しそうなベアトリスの様子を思い出す。
「ねえ、俺が…ベアトリスを修道院から出してやりたいなんて思うのは、差し出がましい事かな?烏滸がましい?」
俺のせいで人生が変わってしまったベアトリスを、自由にしたい、幸せになって欲しいと思うのは、ただのエゴだろうか?
「ベアトリス嬢がそれを望むなら…ただ、修道院を出ても実家へは戻れないだろう?生活はどうするんだ?」
それは、アランの言う通りか…
「あら、じゃあロードと結婚すれば良いんじゃない?」
「え?」
「修道院を出るための寄付をロードが出す理由にもなるし、偽装ででも結婚して、ベアトリス様は看護師になるとか、何か手に職をつけてから離婚すればどうかしら?」
エリザベスは人差し指を立てて、口元に当てて言う。
さすが小説家…考える事が一味違うなあ。
「なるほど」
偽装結婚か。
「リジーそれは…」
「あら。もちろんベアトリス様が望むなら、よ?」
エリザベスはニッコリと笑って言った。
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ロードはベアトリスの病室に入ると、ベッドの枕元に椅子を持って来て座る。
息が荒い。
手首を持って脈を取る。
「…う」
少し唸って眉を顰めるベアトリス。
「ベアトリス、寒いの?」
「…ロード…様」
薄く目を開けて頷くベアトリス。
悪寒があるという事はまだ熱が上がるって事か…もう少し様子を見て解熱剤を処方しようかな。
「毛布をもう一枚持って来るよ」
ロードが立ち上がり掛けると、ベアトリスは震える手でロードの白衣の袖を摘んだ。
「一人は…嫌…」
小さな声で呟くベアトリス。
「わかった」
ロードはベッドに座ると、ベアトリスの身体を毛布で包む様にして、ヘッドボードに寄り掛かりベアトリスを毛布ごと後ろから抱き込んだ。
「…ロード様?」
熱で力の入らないベアトリスは、ロードの首元にもたれる形になる。
「少しは暖かいかな?」
こくんと頷く。
「良かった。しばらくこうしてるね」
ロードは腕の中でウトウトと眠りにつき始めたベアトリスを見ながら呟く。
「ベスちゃんは偽装結婚って言ったけど、偽装じゃなくても良いような気がして来たな…」
普段は修道服のベールで隠されているベアトリスの髪の毛を撫でる。
もしこうしてベアトリスを抱きしめてる処を誰かに見られたら、ベアトリスは不貞で婚約破棄されて修道院に入ったのに、そこで医療奉仕先の医師を誑かした、とんでもない修道女って事になるのかな?
でもさ、考えてみたら、ベアトリスの不貞の相手は俺だよ?
別々の道を歩んでた二人が偶然ここで出会うのって、ある意味運命的じゃない?
相手が俺なんだから、ここで恋に落ちたとしても、一途な純愛って捉え方もできるんじゃないかな。
「ちょっとこれはベスちゃんにお願いしなきゃいけないかな」
パトリシアとアレンをモデルにしたエリザベスの小説は、二人の結婚を後押しする、好意的な空気を作り出した。
この間までエリザベスが西国から原稿を送って連載されていた小説は、エリザベスとアランがモデルだ。
婚約解消された者同士が長い間友人として親交を深めていたが、双子の妹王女が他国へ留学する事になり、公爵令息は自分が王女を愛している事に気付き、他国へ王女を追いかけて行く。他国での再会までに王女にも公爵令息にも様々な障害や新しい出会いもあるが、再会した途端、互いに想いが溢れ出るのだ。
この小説も大人気で、連載が終了したばかりなのに続編を望む声が多数上がっているらしい。
「自分がモデルだと美化し放題。盛り放題できて楽しいわ!」
いつかの手紙にそう書いてあったっけ。ベスちゃんらしいな。
続編で、今度は俺とベアトリスの物語を書いてもらおう。
盛り盛りで美化美化でも良い。絶対にハッピーエンドの物語にしてもらうんだ。
ロードはベアトリスを抱く腕に力を入れた。
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…私、この腕に抱かれたのを、昨日の事のように覚えてる。
あれは、私が生きていた中で一番…一番幸せな瞬間だったから。
ベアトリスが幸せな気持ちで目を覚ますと、ロードが同じベッドに横たわり、毛布に包まれたベアトリスを抱きしめていた。
「ロード様!?」
慌てて起き上がろうとして、眩暈を覚えた。
「おっと。目が覚めた?まだ熱が高いから起きちゃ駄目だよ」
ロードが改めてベアトリスを抱き込む。
ドッドッドッと自分の心臓の音が身体中に響く。熱いのは、この状況のせい?それとも病気のせい?
「あの…ロード様…移りますよ?」
「この状況でその心配をするんだ」
ロードはふふっと微笑むと、ベアトリスの眼を覗き込む。
「ロード様?」
何だかクラクラするのは、熱のせいよね…?
「ベアトリス」
「…?」
何だか真剣な眼差しなのは…何故…?
「還俗して、俺と結婚して欲しい」
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