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 レスターの私室から、アレンの私室へと移動し、ソファに向かい合って座ると、アレンが思い出した様に言った。
「そうだパティ、アランが夏季休暇の保養地に俺たちと一緒に行っても良いか?と言うんだが」
「アランが?去年は薬学研究所で働き始めたらアレンと休みが合わせられなくなるかもって言ってたけど大丈夫なの?」
「それが、エリザベスを保養地に誘ったら、パティが一緒でないと行かないと言われたらしい」
「あー…」
 アランとエリザベスは婚約もしていないし、恋人同士という訳でもない。エリザベス一人でアラン一人しかいない王族の保養地へ出向く訳にはいかないのは当然だ。
 例えパトリシアとアレンが一緒に居たとしても、パトリシアもアレンもエリザベスの元婚約者とアランの元婚約者なので、各々が微妙な立ち位置ではあるのだが。
「私はエリザベス様がご一緒で異存はないけど、アレンは?」
 パトリシアがアレンを見ながら言うと、アレンは少し頬を赤くして目を逸らす。
「?」
「アランが薬学研究所へ勤めだして研究所の宿舎へ住む様になってから、エリザベスとは殆ど会えていないらしいんだ。それで『どうにかして休みを合わせるから、頼むから一緒に行かせてくれ』と」
「そうね」
 婚約者でも恋人でもない公爵家の令嬢に会う機会はなかなかないわよね。アランは公爵位を賜ったけど夜会とかには出ないし、エリザベス様が卒業してから夜会などに出席されたという話もあまり聞かないし。
「…伝わるんだ」
 アレンは頬を赤くして眉を顰める。
 どうしたのかしら?アレン。何か…照れてる?
「アランが言葉よりも必死に『エリザベスに会いたい』と思っているのが、伝わって来る」
「……あ」
 双子の共鳴!?
 そんな感情も伝わるの?
「今までアランの方からそんな感情が伝わって来た事がなかったから…そういえば共鳴するのは怪我の痛みや病気の苦しさだけではないといつか言っていたが、こういう事なのか、と」
 アレンはますます頬を染める。
「…つまり、俺がパティを好きな事、誰よりもアランは実感して知っていたんだな」
 それはアレンが平静な振りでずっと隠していた感情で…それをアランには最初から知られてて…だから照れてるの?

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「そうだ、パティこれ」
 パトリシアの向かいのソファから立ち上がったアレンは一枚の紙を持って来て、パトリシアの隣へ座った。
 パトリシアはアレンから受け取った紙を見て目を見開いた。
「アレン、これウェディングドレス?」
「そう」
「…この間、今度の舞踏会のドレスを貰ったばかりよ?それにまだ婚約は内定で正式な物じゃないのに、気が早くない?」
「気が早いと言うか…これは前世の俺が死ぬ前に考えていたドレスなんだ」
 パトリシアが持つ紙を覗き込むアレン。
「え?」
「とても気に入っていたデザインだから、どうしてもパティに着て欲しくて」
「…似合うかしら?」
「それが、思い出しながら描いてみたら、最初からパティのためにデザインしたんじゃないかという気がして来るくらいしっくり来るんだ…だから絶対に似合う」
「アレン…」
「それでドレスのトレーンとベールにパティに刺繍を刺して欲しくて。これは舞台用だからトレーンが短いが、もっとこの辺りまで長いトレーンにするつもりなんだ」
 アレンはドレスのスカートの後部分を指差しながら言う。身分が高いほどトレーンは長くなる。パトリシアのウェディングドレスは第二王子妃が纏う物。王太子妃であるミッチェルの物ほどではないが、長く美しい物にしなくてはならないのだ。
「…ロングトレーンに刺繍をするなら年単位の時間が必要ね。すぐ図案を考え始めなきゃ」
 パトリシアはデザイン画をじっと見つめる。

 アレンのデザインしたドレスに私が刺繍をして…そんなウェディングドレスで結婚式ができるなんて…
「パティ?」
 アレンがパトリシアの顔を覗き込む。
 デザイン画を見つめるパトリシアの瞳に薄っすらと涙が浮かんでいたからだ。
「…アレン、私、信じられないくらい…幸せ」
 潤んだ瞳でアレンを見るパトリシア。
「パティ…俺も」
 アレンはパトリシアの背中に手を回すと、唇を重ねた。



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