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「パティそのワンピースよく似合ってる」
アレンの私室へと移動したパトリシア。部屋に入ると同時にアレンにそう言われて、パトリシアはその場でくるりと回る。
深緑のワンピースの裾がふわりと揺れた。
「アレンが選んでくれたんでしょ?」
「選んだと言うか…」
「?」
アレンに促されてソファに座ると、お茶の準備をしていたジェイが言う。
「アレン殿下がデザインされたんですよ。そのワンピース」
「え?」
アレンが?
「…俺が自分で言うつもりだったのに」
アレンは赤くなりながらパトリシアの向かいにドサリと座る。
「え?本当に?」
「ああ。生地も選んだ」
「パトリシア様のこれまでの舞踏会と卒業パーティーのドレスも全てアレン殿下のデザインなんですよ」
ジェイが面白そうに言う。
「ええ!?」
今年の舞踏会のドレス、背中の編み上げが細かくてパニエも何重にもなってて…
マールが侍女泣かせと言うより殿方泣かせって言ってた。
…違う。他にも誰か、何か言ってるのを聞いたわ。
「背中の編み上げといい、分厚いパニエといい、このドレスからは『パトリシアに手を出すな』って意思がひしひしと伝わるね」
「あっ!」
思い出した!フェアリ様があの時そう言ったんだわ。
「どうした?パティ」
急に大きな声を上げたパトリシアをアレンが心配そうに見ている。
パトリシアに手を出すなって、思ってたの?私を守ってくれてたの?
「ううん。どのドレスも素敵だったなと思って…」
ジェイが部屋を出て、いつもの姿は見えるが声は聞こえない位置に控えると、アレンはパトリシアの隣へと移動する。
「アレンはデザイナーになりたかったの?」
「そうだなあ。ここでは現実的に職業としては考えた事はないが…前世では舞台衣装の作成の仕事をしていたんだ」
「前世で?」
「そう。前世では小さな劇団で舞台の衣装をデザインしてパターンを作って生地を選んで裁断して縫って仕立てていた」
「じゃあアレンは服を一から作れるの?すごいわ!」
「舞台衣装だから着心地などより見栄え重視だったがな」
「私…舞踏会でフェアリ様に連れ出された時にフェアリ様がドレスを見て『背中の編み上げと分厚いパニエからパトリシアに手を出すなって意思が伝わる』って言ってたの、思い出したの」
パトリシアは上目遣いにアレンを見る。
「あの時はロード・フェアリがパティに近付こうとしていて…だからその意思は正しく伝わっている」
パトリシアの頬に手を当てるアレン。
「じゃあ今日のこれは?」
自分の背中の方を指で示す。
背中に並んだ細かいボタンの意味は?
「これは、自戒だな。まだパティに手を出すなよ、と。自分に伝えるためだ」
「そうなの?」
少し唇を尖らせたパトリシアにアレンは触れるだけのキスをする。そしてそのままパトリシアを腕に閉じ込めた。
「…次にパティを抱くのは婚姻してからだ。何しろめちゃくちゃにするつもりだからな」
「…っ」
耳元で囁かれ、パトリシアは真っ赤になってアレンにしがみついた。
-----
幼い頃から服が好きだった。
特に女性のドレスは華やかで綺麗でわくわくする。
「パティ、このスカートの裾にレースがあったらかわいくないか?」
五~六歳の頃から、幼なじみの着ているかわいらしいドレスにアレンジを加えていた。針など持たせてもらえる筈もないので、もっぱら提案して指示をしていただけではあるが。
「かわいい!レンちゃんの言う通りにしたらお洋服が全部かわいくなるね」
目を輝かせて笑う幼なじみを初めて愛しく思ったのもこの頃だ。
十歳を過ぎれば男女が一緒に遊ぶ事もなくなり、パティの服にも直接言及はしなくなった。それでも時々は「あのスカートの丈はあと少し短い方が良いな」などと考えていた。
パティに着せたいドレスや洋服のデザインを考え出したのはこの頃。
婚約した後は、舞踏会や卒業パーティーに贈るドレスのデザインを考えた。もちろんエリザベスのドレスも考えたが、熱が入るのはパティのドレスだ。
幸いアランは服飾には無頓着なので、俺デザインのドレスだと気付かず俺が薦めるままにパティにドレスを贈ってくれた。
俺のデザインしたドレスを纏うパティを見るだけで、密かに満足していたんだ。
前世を思い出して、舞台衣装を作っていたから服飾が好きなのかと納得した。
思えば「溺愛生徒会」をプレイしていた時も登場人物の恋模様などよりドレスや夜会服などの方に興味があった。
小さな劇団で衣装を作り、モブ役などで舞台に出たり、アルバイトをしたりしながら生活をしていた。もうすぐ三十歳になる独身男の俺。
ある日、頭にガツンと殴られたような痛みと言うより衝撃を覚えたのが最後の記憶。
多分クモ膜下出血とか、脳梗塞とか言う奴だったんだろう。
薄れる意識の中で一枚のデザイン画が見えた。次の舞台で使う予定のウェディングドレス。
我ながらすごく良いデザインで、舞台で使わずに自分の結婚式で使いたいくらいの…相手がいないから諦めてやっぱり舞台でつかうことにした、ドレス。
ああ…完成させたかったな…
「パティそのワンピースよく似合ってる」
アレンの私室へと移動したパトリシア。部屋に入ると同時にアレンにそう言われて、パトリシアはその場でくるりと回る。
深緑のワンピースの裾がふわりと揺れた。
「アレンが選んでくれたんでしょ?」
「選んだと言うか…」
「?」
アレンに促されてソファに座ると、お茶の準備をしていたジェイが言う。
「アレン殿下がデザインされたんですよ。そのワンピース」
「え?」
アレンが?
「…俺が自分で言うつもりだったのに」
アレンは赤くなりながらパトリシアの向かいにドサリと座る。
「え?本当に?」
「ああ。生地も選んだ」
「パトリシア様のこれまでの舞踏会と卒業パーティーのドレスも全てアレン殿下のデザインなんですよ」
ジェイが面白そうに言う。
「ええ!?」
今年の舞踏会のドレス、背中の編み上げが細かくてパニエも何重にもなってて…
マールが侍女泣かせと言うより殿方泣かせって言ってた。
…違う。他にも誰か、何か言ってるのを聞いたわ。
「背中の編み上げといい、分厚いパニエといい、このドレスからは『パトリシアに手を出すな』って意思がひしひしと伝わるね」
「あっ!」
思い出した!フェアリ様があの時そう言ったんだわ。
「どうした?パティ」
急に大きな声を上げたパトリシアをアレンが心配そうに見ている。
パトリシアに手を出すなって、思ってたの?私を守ってくれてたの?
「ううん。どのドレスも素敵だったなと思って…」
ジェイが部屋を出て、いつもの姿は見えるが声は聞こえない位置に控えると、アレンはパトリシアの隣へと移動する。
「アレンはデザイナーになりたかったの?」
「そうだなあ。ここでは現実的に職業としては考えた事はないが…前世では舞台衣装の作成の仕事をしていたんだ」
「前世で?」
「そう。前世では小さな劇団で舞台の衣装をデザインしてパターンを作って生地を選んで裁断して縫って仕立てていた」
「じゃあアレンは服を一から作れるの?すごいわ!」
「舞台衣装だから着心地などより見栄え重視だったがな」
「私…舞踏会でフェアリ様に連れ出された時にフェアリ様がドレスを見て『背中の編み上げと分厚いパニエからパトリシアに手を出すなって意思が伝わる』って言ってたの、思い出したの」
パトリシアは上目遣いにアレンを見る。
「あの時はロード・フェアリがパティに近付こうとしていて…だからその意思は正しく伝わっている」
パトリシアの頬に手を当てるアレン。
「じゃあ今日のこれは?」
自分の背中の方を指で示す。
背中に並んだ細かいボタンの意味は?
「これは、自戒だな。まだパティに手を出すなよ、と。自分に伝えるためだ」
「そうなの?」
少し唇を尖らせたパトリシアにアレンは触れるだけのキスをする。そしてそのままパトリシアを腕に閉じ込めた。
「…次にパティを抱くのは婚姻してからだ。何しろめちゃくちゃにするつもりだからな」
「…っ」
耳元で囁かれ、パトリシアは真っ赤になってアレンにしがみついた。
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幼い頃から服が好きだった。
特に女性のドレスは華やかで綺麗でわくわくする。
「パティ、このスカートの裾にレースがあったらかわいくないか?」
五~六歳の頃から、幼なじみの着ているかわいらしいドレスにアレンジを加えていた。針など持たせてもらえる筈もないので、もっぱら提案して指示をしていただけではあるが。
「かわいい!レンちゃんの言う通りにしたらお洋服が全部かわいくなるね」
目を輝かせて笑う幼なじみを初めて愛しく思ったのもこの頃だ。
十歳を過ぎれば男女が一緒に遊ぶ事もなくなり、パティの服にも直接言及はしなくなった。それでも時々は「あのスカートの丈はあと少し短い方が良いな」などと考えていた。
パティに着せたいドレスや洋服のデザインを考え出したのはこの頃。
婚約した後は、舞踏会や卒業パーティーに贈るドレスのデザインを考えた。もちろんエリザベスのドレスも考えたが、熱が入るのはパティのドレスだ。
幸いアランは服飾には無頓着なので、俺デザインのドレスだと気付かず俺が薦めるままにパティにドレスを贈ってくれた。
俺のデザインしたドレスを纏うパティを見るだけで、密かに満足していたんだ。
前世を思い出して、舞台衣装を作っていたから服飾が好きなのかと納得した。
思えば「溺愛生徒会」をプレイしていた時も登場人物の恋模様などよりドレスや夜会服などの方に興味があった。
小さな劇団で衣装を作り、モブ役などで舞台に出たり、アルバイトをしたりしながら生活をしていた。もうすぐ三十歳になる独身男の俺。
ある日、頭にガツンと殴られたような痛みと言うより衝撃を覚えたのが最後の記憶。
多分クモ膜下出血とか、脳梗塞とか言う奴だったんだろう。
薄れる意識の中で一枚のデザイン画が見えた。次の舞台で使う予定のウェディングドレス。
我ながらすごく良いデザインで、舞台で使わずに自分の結婚式で使いたいくらいの…相手がいないから諦めてやっぱり舞台でつかうことにした、ドレス。
ああ…完成させたかったな…
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